第八十八話 ランクアップと身体能力ボーナス付与
あの壮絶なS級ダンジョンボス討伐から2日――。
「天城蓮さんですね? おめでとうございます!」
冒険者ギルドの受付に足を運ぶと、受付スタッフの女性が満面の笑みで俺を迎えた。
彼女が手渡してくれた新しいランクカードには「B」と刻まれている。
「Bランク……」
つい数週間前まではFランクだった俺が、今やBランクの冒険者だ。
「この短期間でFからBまで上がるなんて……前代未聞です! 一体何をやられたんですか!?」
受付スタッフの驚いた声がギルドのホール全体に響く。
その言葉に、周囲のストレンジャーたちが一斉にこちらに注目した。
「すげえ、あいつFランクだったのかよ……!」
「Bランクまで上がるのに普通は何年もかかるってのに、どうやったらそんなことが……?」
「まさか、S級ダンジョン討伐の噂って、こいつのことか?」
囁き声が広がる中、俺は守秘義務とかないのか! と心の中でクレームを入れる。
そんなことお構いなしに、受付スタッフがさらに興奮した様子で声を上げた。
「記念にギルドニュースのインタビューをお願いできませんか? ぜひ天城さんの体験談を聞かせてください!」
「す、すみません! 次の予定があるので!」
慌ててその場を離れようとする俺の周りに、さらに人が集まってくる。
「おいおい、ちょっと待てよ! 少し詳しい話を聞かせてくれ! よければ一緒に写真も!!」
「私も! もし君は噂の高校生なら……サインとか欲しいんだけど!」
「す、すみません! 本当に急いでるので!!」
逃げるようにその場を後にした。
ようやく人混みを抜け、次に向かったのは、ギルドのブリーフィングルーム(作戦会議室)。
ここにはランクアップしたストレンジャーが利用する「モノリス」と呼ばれる巨大な装置が設置されている。
モノリスに手を触れると、目の前に青白いウィンドウが浮かび上がった。
【ランクアップボーナス:Bランク】
ボーナスポイントを、どの身体能力に付与しますか?
1.攻撃力
2.防御力
3.俊敏性
4.魔力
5.器用さ(生産・合成スキル向上)
6.運(アイテムドロップ率・クリティカル率向上)
7.耐久力(HP上限上昇)
8.精神力(スキル使用耐性向上)
9.スタミナ(持久力向上)
10.回避力(被弾率低下)
11.反射神経(カウンター攻撃精度向上)
12.協調力(パーティ効果上昇)
13.集中力(スキル成功率上昇)
「いつも、このボーナス付与、迷うんだよなぁ……」
俺は頭を捻りながら、悩ましい声をあげる。
しかし、ボーナスポイント、Bランクに上がると、こんなに多くのボーナスが付与されるのか……!
CランクからBランクへの昇格は、身体スペックが大幅に向上する。
俺の学校にも唯一Bランクの城戸がいたが、あいつが幅をきかせていた理由もわかるというものだ。どうやってランクBまでのしあがったのか、不思議で仕方ないが。
とにかく、Bランクというのは冒険者にとって重要なターニングポイントだとされている。
このボーナスポイントを、各ストレンジャーは自分の職業スタイルに合わせて割り振っていく。
『希望の成長ルートを指定し、割り振ってください』
ウィンドウに表示されたその文字を見て、俺は少しだけ考え込んだ。
(成長ルート……そうか、目指す職業を決めないといけないのか)
俺はこれまで、ずっとFランクだったため、明確な成長ルートを決めていなかった。
学校の授業もおろそかにしていた俺には、職業の知識もほとんどなく、興味もなかった。
しかし、他のストレンジャーたちはしっかりと自分の成長ルートを見据えている。
例えば――。
【職業例】
朱音(前衛魔導士):攻撃魔法に特化した職業。防御力は低いが、高火力で敵を殲滅する。
リナ(中衛魔導士):サポート系の魔法と攻撃魔法の両立を得意とする。
リン(後衛僧侶):回復魔法に特化した職業。仲間を支える支援型。
(みんな、それぞれの職業ルートをしっかり決めている……)
一方の俺は、これまで全く考えてこなかった。
Fランクでは、自分の成長ルートなんて決められるような実力も自信もなかったからだ。
(だけど……今回は違う)
S級ダンジョンの討伐戦で俺が気づいたのは、自分の戦い方の本質だった。
俺はこれまでアタッカーとして敵を倒してきたが、それ以上に《過去視》で得たアイテムを駆使して、仲間をサポートしたり、敵の弱点をつく武器を開発したりしてきた。
(言うなれば、攻撃的な生産職……サポートタイプだ)
自分は、ただのアタッカーではない。
アタッカーとしての特性と、アイテムを通じて仲間を支援する特性、その両方を持っている。
(これが……俺の目指すべき道だ)
ウィンドウには、さまざまな職業とそれにあう成長ルートが表示されている。
「成長ルートを選択してください」
その文字の下に、小さく「カスタム(上級者向け)」という項目が目に留まった。
(これだ……)
俺は「カスタム」を選択し、自分の目指すスタイルに合ったボーナス振り分けを開始した。
大量のボーナスを、以下の3点のみに付与した。
【ボーナス割り振り】
1.攻撃力:敵を倒す火力を強化。
2.器用さ:生産や合成スキル向上。
3.運:アイテムドロップ率、合成成功率、クリティカル率を上昇。
アイテムを扱う生産職でありながらも、自身がアタッカーとして敵を倒す、俺なりのスタイル。
それを活かす成長ルートを意識したのだ。
振り分けを完了した瞬間、モノリスが青白く輝き、ウィンドウが閉じた。
胸の中で新たな決意を抱き、俺は冒険者ギルドを後にした。
ギルドを出た瞬間、スマホが振動した。
画面を見ると、リナからメッセージが届いている。
「もう始まっちゃうよ!? どこで何してるの!? 早く早く!!」
その文字を見て、俺は慌ててスマホを握りしめた。
(急がないと……!)
今日は、2日前に行われたS級ダンジョン討伐の成功を記念した祝賀パーティが開催される日だ。
もちろん主役は討伐隊のメンバー。そこには俺――天城蓮も入っている。
胸を張り、足を速めて会場へと向かう。




