第八十三話 討伐隊の崩壊
巨大な扉がゆっくりと開く。
重厚な音が空間全体に響き渡り、その先に広がるのは、薄暗い霧が漂う広大な空間だった。
「……これがボス部屋か」
俺は息を飲みながら、その不気味な雰囲気を全身で感じ取った。
天井は見えないほど高く、壁は古代の模様で覆われている。
中心には、圧倒的な威圧感を放つ巨大なモンスターが鎮座していた。
【ボス情報】
名前:暗獄竜ゼルガルム
ランク:S級ボスモンスター
HP:???
スキル:暗黒咆哮、毒霧展開、自己再生
「こいつが……ゼルガルム……!!」
全身を黒い鱗に覆われたその姿は、まるで闇そのものが具現化したかのようだった。
巨大な瞳は赤く輝き、尾がゆっくりと地面をなぞるたびに低い振動音が空間を震わせる。
その時、不意に頭の中に声が響いた。
『矮小な人間よ。また懲りずにやってきたか』
「えっ……!?」
その声は、耳ではなく、直接頭に響くようだった。
『お前たち虫ケラの命、いくらでも刈り取ってやろう。そして、機が熟せば、我は地上に上がり、さらなる破壊をお前たちにもたらすのだ』
「魔物が、喋ってる……!?」
人語を理解する、知的モンスター。
その存在に、全員の表情が強張った。
「怯むな!」
イザナの声が響く。
「相手が何を言おうと、ただのモンスターだ! 奴を倒すためにここに来たんだ!」
その言葉に全員がハッとし、構えを取り直す。
「隊列を組め!」
イザナが的確な指示を飛ばす。
「防御班はボスの正面を押さえろ! 魔法班は毒霧を払い、視界を確保しろ! 攻撃班は後方から波状攻撃を仕掛けるんだ!」
「「「はい!!」」」
全員がその指示に従い、一斉に行動を開始した。
防御班が盾を構え、ボスの注意を引きつけると同時に、魔法班が周囲の毒霧を浄化する。
「攻撃班、準備!」
後方からアタッカーたちが一斉に武器を構え、ボスに向かって突撃する。
その連携は見事で、全員の動きが統率されていた。
(何十人というストレンジャーが一瞬でこの動き……! これなら……!」
希望が胸に広がるその瞬間――。
『愚かな。我が毒によって滅ぶが良い』
ゼルガルムが低い声で咆哮を上げた。
その直後、巨大な口から黒いブレスが放たれる。
「なっ……!」
一瞬で広がる毒の嵐。
その威力は絶大で、前衛のアタッカーたちが次々と吹き飛ばされた。
「うわああっ……!」
「ひいいいっ……!!」
「ぎゃあっ!!」
地面に倒れ込み、動けなくなる仲間たち。
猛毒のデバフもかかっているようで、起き上がるストレンジャーはいなかった。
ボスの初手の攻撃のみで、こちらの戦力が1/3、無力化されてしまったのだ。
その光景を見たリンが悲鳴を上げる。
「きゃああああああっ……!」
毒霧に包まれた空間は視界を奪い、全員の動きが鈍る。
俺は咄嗟に金剛の盾を構え、周囲を警戒した。
「くそっ……!」
イザナが悔しそうに歯を食いしばる。
「これが……S級ボスの力なのか……!」
誰もがその圧倒的な力の前に絶望していた。
周囲のメンバーの表情には恐怖と焦りが浮かび、次の一手を打つ余裕さえなかった。
「リンさん、大丈夫ですか!?」
近くで震えているリンに声をかける。
彼女は顔を青ざめたまま、力なく首を縦に振った。
「天城さん……どうしたら……」
その声に、俺は咄嗟に考えを巡らせた。
「……大丈夫です」
心を落ち着け、俺はマジックバッグに手を伸ばした。
(ここしかない……今こそ、《過去視:改》で進化させた、あのアイテムを使う時だ!)
「みんな、俺が何とかする!」
『さあ、これでトドメだ!!』
ゼルガルムが再び口を開き、次のブレスを放とうとする。
(間に合え……!!)
その巨大な影を目の前にしながら、俺は祈った。
アイテムを握りしめた。




