第七十九話 覚醒アイテム『進化の宝光』
頭の中ではリナの配信で見た像の姿が繰り返し浮かんでいる。
(間違いない。あの像は夢で見たものだ……)
電車のドアが閉まり、俺は息を整えながら座席に腰を下ろした。
「箱根の古代遺跡か……」
日本有数の、過去に栄えた魔法文明の一部を証明する遺跡。
教科書にも掲載されるほど有名な場所だ。
その遺跡を起点に、多くの遺物が発掘され、魔法文明の研究が進んできたと聞いたことがある。
(でも……なんで俺がこんな場所に?)
スペリシアの言葉と、リナの配信がなければ来ることはなかっただろう。
理由はわからないが、胸の中に湧き上がる直感を無視するわけにはいかなかった。
特急電車を降り、さらに徒歩で向かうと、目の前には古代遺跡を囲むようにして建てられた博物館が姿を現した。
ガラス張りの近代的な外観が、遺跡の歴史的価値と対照的に輝いている。
(ここに……あるんだな)
入場券を購入し、急ぎ足で館内に入る。
展示スペースには、発掘された古代の遺物が美しく並べられ、多くの観光客がそれを見て回っていた。
「すごいな……」
展示された魔法道具や彫刻の一つ一つが、過去の文明の栄華を物語っている。
だが、俺が目指しているのはただ一つ――夢で見た像だ。
博物館の中心に近づくと、視界の先に一際目立つ展示が目に入った。
(あれは……!)
ガラスケースに収められた巨大な像。リナの配信で見た参考書の写真と同じもの――そして、夢の中で見たあの像だ。
「間違いない……!」
俺は像に近づき、その姿を改めて確認した。
長い年月を経て劣化し、表面はひび割れ、崩壊している箇所も多い。
それでも、胴体の球体部分だけはかつての姿を微かに留めていた。
(いける……これなら俺のスキルで……!)
周囲の目を盗むようにして、俺は像にそっと手を触れた。
そして、意識を集中してスキルを発動する。
「《過去視》!」
視界が微かに歪み、1秒前の姿が浮かび上がる。
そこからさらに、スキルの重ね掛けを繰り返す。
「1秒……10秒……1分……」
手元のノートに記録してきた進化のコツを思い出しながら、限界を超えるほどスキルを発動し続けた。
「10年……100年……」
やがて、劣化した像が少しずつ形を取り戻していく。壊れていた球体部分が修復され、光沢を取り戻し始めた。
「もっと……!」
全身が疲労で震える中、ついに像は完全な姿を取り戻した。その瞬間、目の前に青白いウィンドウが表示される。
【ウィンドウ表示】
【封印の解放】発動!
古代文明遺物が本来の姿を取り戻します。
「これは……!」
3000年前――かつての栄華を極めた時代の姿。
それが今、目の前で蘇った。胴体の中心に輝く球体。その中には、眩い光が渦巻いている。
「これが……3000年前の姿……」
夢の中で見たものと同じ光景が目の前に広がっていた。
俺は吸い寄せられるようにして手を伸ばし、球体に触れた。
「……っ!」
バチィッ!!
電気ショックのような衝撃が体中を駆け巡る。
吹き飛ばされた俺は、そのまま床に倒れ込んだ。
「大丈夫ですか!?」
施設の警備員が駆け寄り、心配そうに声をかけてくる。
「え、ええ……すみません……!」
痛みをこらえながら立ち上がろうとした瞬間、目の前に青白いウィンドウが再び表示された。
【ウィンドウ表示】
覚醒アイテム【進化の宝光】に触れました。
《過去視》のスキルツリーを解放します。
「……!」
震える手でウィンドウを見つめる。
「やった……」
ふと、大魔導士の言葉が脳裏に蘇る。
『お前が触れるべきは今ではない』
「そういうことだったのか……」
スキルツリーを解放する像。
それに触れるべき時は、3000年前ではなく――現代だったのだ。
(これでS級ダンジョンボス討伐に向けての準備が大きく前進した)
感慨深く像を見上げた俺は、目の前の光景に息を呑んだ。
3000年前の姿を取り戻していた像が、わずか数秒の間に再び朽ち果てた姿へと戻っていたのだ。
(進化した他のアイテムとは……違うのか……)
かつての輝きが嘘のように消え去り、長い年月を感じさせるひび割れた表面が現れている。
「ありがとう」




