第七十八話 ツリー解放の鍵の在処
「スキルツリーを解放する……」
机に肘をつきながら、俺は手元のノートを見つめていた。そこには「スキルツリー」「解放」「過去視」といった単語が乱雑に書き連ねられている。
(スペリシアの言葉が本当なら、このスキルにはまだ未知の力が眠っている……)
しかし、その力をどうやって引き出せばいいのか、その方法がまったく思いつかない。
「どうすればいいんだ……」
悩むほどに頭の中が混乱していく。これまでの解析や訓練で得た知識を振り返っても、手がかりになりそうなものは何も浮かばない。
「……ダメだ、考えすぎて頭が爆発しそうだ」
ノートを閉じ、部屋を出た俺は、街中へと足を運んだ。
平日の昼間にもかかわらず、アーケード街には人の賑わいがあり、どこかほっとする。
(気分転換くらいしないと、やってられない)
そのまま視線を向けた先には、ゲームセンターの明るいネオンが輝いていた。
誘われるように中へ入ると、目の前にはUFOキャッチャーの列が並んでいる。
「……たまにはこういうのもいいか」
軽い気持ちで挑戦したものの――。
「くっ、また取れない……!」
何度挑戦しても、アームはぬいぐるみを掴むことなくスカスカと空を切る。
「これでどうだ……っ!」
アームがぬいぐるみに触れたかと思えば、持ち上げた瞬間に無情にも落ちてしまう。
「なんでだよ……!」
気づけば財布の中から何千円も消えており、俺は顔を覆った。
(くるんじゃなかった……)
結局一つも景品を取ることができないまま、トボトボとゲームセンターを後にした。
歩きながらスマホを手に取ると、リナからのメッセージが届いていることに気づいた。
「何だ……?」
開くと、彼女からの配信通知だった。
「見て見て! 配信してるよ~!」
リンクをタップすると、リナが自宅の机に座っている映像が映し出された。
彼女の部屋らしく、後ろには可愛らしいぬいぐるみやドローンのパーツが並んでいる。
「はぁ~……今度の中間テスト、古代文明歴史学とか絶対無理だよ~!」
リナが机に伏せるようにして嘆いている。
「うひー、絶対赤点取れないよー! 赤点取っちゃうと、パパとママにダンジョン配信の許可が取れないんだよね~!」
カメラ越しに彼女が学生ならではの苦悩を語る様子に、思わず口元が緩む。
(相変わらずだな……)
彼女の明るいテンションが、俺の疲れた心を少しだけ癒してくれる。
ふと、画面の隅に映ったリナの参考書に目が止まった。
そこには写真が掲載されており、見覚えのある物体が写っている。
「……!」
俺は思わずスマホを握りしめた。
それは、夢で見た宮殿のスタチュー――胴体が球体状の結晶に覆われ、その中に渦巻く光を閉じ込めていたあの像だった。
(間違いない……!)
ただし、写真の中のそれは、長い年月を経て劣化し、半分崩壊していた。球体も破損しており、中の渦巻く光は失われている。
「どうしてこんなものが……?」
参考書に映った写真が気になりすぎて、俺はリナの配信にコメントを打ち込んだ。
「いまやってるテスト課題、いつの時代のどこの場所について勉強してる!?」
画面に表示された俺のコメントを見たリナが、嬉しそうに顔を輝かせた。
「あー! 天城くんがコメントしてくれてる! ありがとー♡」
「いや、そうじゃなくて……」
思わず画面に向かって突っ込んだが、当然彼女には聞こえない。
「えっと、私が勉強してるのは、ダンジョン発生のヒントがありそうな古代文明歴史学なんだけど……全然わかんないんだよねー!」
リナは笑顔で話しているが、具体的な答えは全く返ってこない。
(くそっ、頼むからちゃんと答えてくれ……!)
その時、画面に別の視聴者からのコメントが流れた。
『リナちん、それって古代文明歴史学の初期だよね。3000年前、今の箱根にある古代遺跡についてじゃない?』
「えっ、そうなんだ~!」リナが明るく返事をする。
そのコメントを見た俺の中で、全ての点が線になった。
(3000年前……箱根の古代遺跡……!)
夢でスペリシアが「3000年前に死んだ」と言った言葉と、この情報が重なる。まるでピースが一つずつ埋まっていくような感覚だった。
(これだ……この遺跡がスキルツリー解放の鍵かもしれない……!)
俺はスマホを閉じ、最寄りの駅まで駆け出した。
目指すは箱根の古代遺跡――。




