第七十三話 起死回生のコール
「どっちを取るの?」
「どっちと一緒にいるんですか?」
リナと朱音が、俺を挟む形で同時に問いかけてきた。その目には真剣な光が宿り、俺の返事を待っている。
(くそっ……これは……究極の選択すぎるだろ!)
顔から冷や汗が滲むのを感じながら、なんとかこの状況を切り抜けようと頭をフル回転させるが、二人の視線が鋭すぎて何も考えられない。
「天城くん、私は天城くんと一緒にいれば、どんな冒険でも安全に終えられるって確信してるの!」
「それは私だって同じです! 天城くんは学校でも誰よりも努力してるし、私が知ってる天城くんは本当に信頼できる人なんです!」
「でも、私のサポートがあるから、天城くんはあそこまで活躍できたんだよね?」
「サポートも大事だけど、そもそも天城くん自身の力がすごいんです!」
二人が譲らずに俺を巡って言い合いを続けている。
(なんとか……なんとかしないと!)
その時、不意にスマホが振動した。
「!?」
思わず、スマホを取り出して画面を確認する。
そこには見覚えのあるアカツキブレイドのギルドマークが表示されていた。
(これって、まさか……!!)
「ちょっと電話だ!」
俺はスマホを耳に当て、通話ボタンを押した。
「イザナ=カグラだ」
電話越しに低く落ち着いた声が響く。
その声を聞いた瞬間、俺は無意識に背筋を伸ばした。
「!! あ、天城蓮です!」
「突然の連絡で申し訳なかったね。今日の新宿支部での事件のことを、直接キミから聞き取りたいんだ。もし時間があれば、今から本部ビルまで来れるかね?」
「は、はい、わかりました!」
「感謝する。待っているよ」
通話が切れ、俺はスマホをゆっくりと下ろした。
(これで……この場を潜り抜けられる!)
俺は申し訳なさそうに顔を作りながら、二人に向き直った。
「ごめん! イザナさんから急ぎの呼び出しがあって、今すぐ本部ビルに行かなきゃならないんだ!」
「えっ、ギルドのトップから!?」リナが目を丸くする。
「そんな大事な用事なんですか?」朱音も心配そうに尋ねる。
「ああ、本当にごめん! また今度ゆっくり話そう!」
二人に一礼すると、俺はその場からダッシュで離れた。
「俺、急ぐから……!!」
※ ※ ※
蓮が去った後、リナと朱音は顔を見合わせた。
しばらくの沈黙の後、リナが口を開いた。
「……せっかく天城くんと話せるチャンスだったのにね」
「そうですね。でも、あれだけ急いでいるなら仕方ないです」
二人は同時にため息をついた後、リナが提案する。
「ねえ、私たちも時間あるし……お茶でもする?」
「……いいですね。天城くんトークで、意気投合できそうです」
「じゃ、天城くんの話をネタに、一緒に盛り上がろう!」
二人は微笑み合い、近くのカフェへと向かった。
※ ※ ※
「失礼します」
俺は本部ビルの最上階にある応接室のドアを開けた。
広々とした部屋の中央には、ギルドリーダーのイザナ=カグラが静かに座っていた。
「ようこそ」
イザナが落ち着いた声で迎え、俺に席を勧める。
「早速だが、ハザマ支部長のことについて、謝らせて欲しい。本当にすまなかった」
イザナは深く頭を下げた。
その姿に、俺は慌てて手を振った。
「いえ、いいんです! 頭を上げてください!」
イザナは顔を上げ、俺を真っ直ぐに見つめた。
「……そう言ってくれてありがたい」
少しだけ微笑んだ後、イザナは続けた。
「これは、お詫び代わりというわけではないが、キミにお願いしたいことがあって、来てもらったんだ」
「え……?」
俺が目を見開く中、イザナの声には新たな緊張感が滲んでいた。




