第七十二話 せめぎ合う二人
「い、いや、だからその、説明って言っても……」
焦る俺は、うまく返答をすることができず、たどたどしく言葉を紡ぐ。
「とにかく！ 天城くんは、私と一緒に行動するべきなの！」
とリナがアピールすれば、
「ちょっと待って、それはこっちの台詞です！ 天城くんには学校での付き合いがあるんですから！」
朱音がそれに対抗するように反論する。
ダンジョンを出た直後、リナと朱音が俺を挟む形で対峙していた。
二人とも表情は真剣で、絶対に譲り合わない雰囲気が漂っている。
「さっきも言ったんだけど、私と天城くんは最強コンビなの！ 配信でもすごい反響だったし、今後ももっと一緒に冒険するべきなんだよね！」
「配信って……そんなの一時的なものじゃないですか。私は天城くんの学校での日常を知ってるんです。一緒に戦うだけじゃなくて、普通の生活も支えるのが本当の仲間です！」
まだまだ、張本人の俺を置いてけぼりにして、リナと朱音のせめぎ合いは続く。
「学校の日常ねえ……でも私、天城くんがどれだけすごい戦闘スキルを持ってるか、全部知ってるから！」
「それは私だって知ってますよ！ 天城くんの冷静な判断力と戦略、あれは本当に尊敬に値します！」
「それに、天城くんって戦闘の時、特に双剣の扱いがピカイチなんだよね！ 私、すぐ近くで見てたもん！」
「いえいえ、それだけじゃないです。杖や盾の持ち直し、マジックバッグから取り出すスピードもすごかったですよ！ あれだけの動きができるの、見てて鳥肌が立ちました！」
「鳥肌なんて言うけど、リナ親衛隊のみんなは、天城くんが私と一緒に行動してることをすっごく応援してくれてるんだよね～！」
「応援は確かにいいことかもしれませんけど、私は天城くんとクラスメイトとして、日々一緒にいるからこそ大切なことがわかるんです！」
俺は耐えきれなくなって、仲裁に入ろうとする。
「あ、あのさ、二人とも、そろそろこの辺でーー」
「ねえ月宮さんって言ったっけ。さっきの戦闘見てた？ 天城くん、あの化け物を倒したんだよ？ 私がしっかりサポートしたおかげかも！」
「もちろん見てました！ サポートも大事だとは思いますが、やっぱりあの時の冷静さと正確な判断、戦闘のセンス……天城くんって本当にすごいですよね！ 天城くんが！」
「学校で努力って言うけど、それって成績とかでしょ？ 冒険者としてのスキルは、私のほうが知ってるよ！」
「成績も冒険者スキルも、両方大事です！ 天城くんのすごいところを知ってるのは、私なんですから！」
「「ぐぬぬぬ……」」
リナと朱音がどちらも真剣な表情で、しかし穏やかなトーンで俺を巡るトークを続ける。
その間、俺は冷や汗を流すばかりだった。
（なんだこれ……なんで俺が挟まれてるんだよ……！）
「で、天城くん！」
「そうです、天城くん！」
二人が同時に俺の方に向き直る。その目には真剣な光が宿っていた。
「どっちを取るの？」
「どっちと一緒にいるんですか？」
迫る二人。俺は汗を流しながら、さらに困惑した表情を浮かべていた。
「えっ……それは……！」
