第七十一話 一体どういうことなんですか
シンジ・ハザマは、新宿支部のギルドメンバーに拘束され、無力化された状態でダンジョンの外へと運ばれていく。
その傷ついた体は無様で、かつての冷酷さはどこにもなかった。
「まさか、シンジさんが……」
メンバーたちは落胆と怒りの入り混じった表情を浮かべている。
おそらく彼は、このまま冒険者ギルドの地下牢屋へと収監されていくのだろう。
「これで……終わったのか」
B級ダンジョンゲートを出たすぐの待機スペース。
俺は深い息を吐きながら、その光景を見届けていた。
「天城くん!」
リナが駆け寄ってくる。顔には明らかに興奮と興味の色が浮かんでいる。
「すごかったね! でも、あんなところにちょうどいい秘密の部屋があったなんて!?」
「ああ、あれは俺が仕込んだ罠さ」
「罠!?」
リナの目が驚きで見開かれる。
「もとは何もない部屋だったんだよ。ただの空間で、奥に別の部屋が繋がっているだけだった」
「それが……どうしてあんなふうに?」
「わざと壁であるかのようにダンジョンのブロックを積み上げて、隠し通路っぽく見せただけさ」
「なるほどね~。でも……あの叡智のクリスタルって……?」
リナがさらに興味深そうに尋ねてくる。その顔に少しだけ苦笑しながら、俺は答えた。
「あれは、俺が元から持っていたA級アイテムだよ。あらゆるゴミアイテムを進化させてきた中で、たまたま出現した唯一のA+クラスのものなんだ」
「ええっ!?」
「でも使い方がわからないし、ずっと閉まったままにしていた。だけど、いい具合に財宝っぽかっただろ?」
「……感心するなあ、天城くんって、ほんとズル賢いよね!」
「褒めてるのか、それ?」
そこに、新宿支部のギルドメンバーたちがわっと集まってきた。
「天城さん、本当にありがとう! シンジさんに騙されてたなんて……!」
「ぜひうちの新しい支部長に! カイさんも納得するはずです!」
「それより、あの《過去視》っていうスキル、もっと詳しく教えてほしい!」
そして、可愛らしい女性メンバーたちが一歩前に出てきて口々に言った。
「この後時間ありますか? 一緒にお茶でも……♡」
「ねえ、次の冒険、ぜひ私とも組んでほしいな~♡」
「えっ……あ、いや、その……!」
質問攻めと好意的な視線に圧倒され、俺は顔を赤くして後ずさった。
(そうか、配信によって俺のゴミスキルの秘密がみんなに知れ渡ったんだ……)
困惑する俺。
(まあ……それは仕方なかったかもしれない。いずれわかることだ。でも、こんな騒ぎはごめんだ……俺は目立たずに冒険者をやっていきたいんだ……!)
その時、リナが周囲のメンバーを遮るように立ちはだかり、大きな声を上げた。
「ちょおーーっと! 天城くんは私と用があるんで、今日は失礼するね!」
「えっ、用って何……」
言い終える前に、リナが俺の腕にぎゅっと絡みついてきた。
「いこ! 天城くん!」
狙ってはもちろんないのだろうが、リナの柔らかい胸部が必然的に俺の腕に押し付けられる。
「ちょ、ま、また当たってるって!!」
顔を真っ赤にしている俺を無視して、リナはそのまま俺を引っ張っていく。
そうやってB級ダンジョンから離れようとした直後、また声をかけられた。
「天城くん!」
振り返ると、
「月宮、さん……」
そこには朱音が立っていた。
彼女は真剣な表情でこちらを見つめ、次の瞬間、リナに向かって言った。
「あの!! そこのリナさん……っていう方! あっあの! 天城くんをたぶらかさないでください!!」
「は? あなたは誰? どういうこと?」
リナが眉をひそめて朱音に問いかける。
「私、天城くんのクラスメイトです! 天城くんは、こんな人と一緒にいるべきじゃありません!!」
「ちょっと、私がどういう人だって言うのよ!」
「天城くんにベタベタしてる時点で怪しいです!」
「なっ……!」
俺は状況がまったく理解できず、ただ二人のやり取りを見つめていた。
朱音とリナが同時に俺に向き直り、声を揃えて叫んだ。
「「一体これ、どういうことか説明して、天城くん!!」」




