第七十話 タネ明かし
シンジが目を見開いた先には、リナのドローンがホバーしていた。
そのカメラが静かにこちらを向き、すべてを撮影している。
「こっ……これは……!?」
焦るシンジ。その動揺は隠しようがなかった。
「そう、その通りです」
俺は静かに言葉を放つ。
「あんたと俺の一部始終は全てリアルタイムで配信されています。もちろん、ギルドメンバーにも、しっかりと」
「そ、そんな……!」
シンジの顔から血の気が引いていく。その時、リナの声がドローン越しに響いた。
『すっごーい!! 天城くんの作戦、バッチリハマったね!!』
俺がリナと別れる直前に伝えた言葉は、まさにこれだ。
今から向かう先で、俺はリーダーと真剣な会話をするけど、それをこっそりリナのドローンで撮影して欲しい、というものだった。
続くリナの声は怒りに満ちていた。
『アンタ、リーダーのくせに、酷いやつだったんだ!! サイテー!!』
その言葉に、配信コメント欄がさらに盛り上がる。
【配信コメント欄】
「通報しますた」
「シンジ……お前、終わったな」
「ギルドにこの事実が拡散されるの、時間の問題だぞ」
「天城くん、マジでかっこいい!」
「リナちゃん、ナイスサポート!」
配信を見ていたギルドメンバーたちの声が響き渡る。
「信じられない……あのシンジさんが、仲間を……?」
「最悪だ……リーダーだと思って信じていたのに」
「くそっ! 支部長どころか、人として最低だろ!」
その声を聞きながら、シンジの表情がどんどん歪んでいく。
「俺の夢が……出世して英雄になるビクトリーロードが……!」
次の瞬間、シンジの表情が一変した。絶望から生まれた狂気が、その目に宿っている。
「クソっ!!! クソガァああ!!」
彼はポケットから怪しげなポーションを取り出し、ためらうことなく飲み干した。
「どうせギルドに逮捕・拘束されるんなら……せめてお前だけでもおおおおお!!!!」
その叫び声とともに、シンジの体が変化していく。皮膚が黒く変色し、筋肉が膨れ上がり、顔は完全に化け物と化していた。
【対象者の変化】
状態:凶暴化(違法ドラッグポーション使用)
効果:攻撃力と防御力が大幅に上昇する代わりに、理性を失い、暴走状態に陥る。
「こいつ……!」
化け物と化したシンジが咆哮を上げ、俺に向かって突進してきた。そのスピードと力強さは、もはや人間のものではなかった。
「臨む(望む)ところだ!!」
俺は槍を構え直し、静かに胸の中で叫ぶ。
(エドガー……見ていてくれ!!)
化け物シンジの巨大な拳が振り下ろされる。その一撃は、地面を砕き、衝撃波を周囲に広げた。
「くっ……!」
蒼狼の戦靴の力で即座に後方へ飛び退き、攻撃を回避する。
「リナ、援護を頼む!」
『了解!』
リナがドローンで周囲を照らしながらサポートする中、俺は過去視で進化させた双剣を取り出した。
【氷刃の双剣】
種別:武器/双剣
ランク:A
説明:氷属性の力を宿した双剣。冷気による追加ダメージで炎属性の敵に有利。
【付与効果】氷属性ダメージ+50%、攻撃速度+20%
化け物シンジが口から黒いブレスを吐き出す。
「なっ……!!」
その一撃は炎と毒を混ぜたような攻撃で、咄嗟にかわすものの、
「化け物になったらなんでもありかよ!?」
俺は急いでマジックバッグからA級アイテムを取り出す。
「これで……防ぐ!」
俺は金剛の盾を構え、ブレスを受け止めた。
【装備アイテム】
名前:金剛の盾
種別:防具/盾
ランク:A
説明:魔法攻撃を完全に無効化する防御の名品。
【付与効果】魔法無効化
盾に触れた黒いブレスが霧散し、完全に消滅した。その様子を見たシンジがさらに怒りの咆哮を上げる。
次の瞬間、化け物シンジが腕を振り下ろし、地面に触れる。その周囲から毒の波動が広がり、俺を巻き込もうとする。
「させない!!」
俺は聖なるペンダントを手にし、スキルを発動した。
「《クリアフィールド》!」
淡い光が周囲を包み込み、状態異常を完全にかき消す。
俺は氷刃の双剣を手に取り、加速してシンジに突撃した。冷気を帯びた刃が彼の身体にダメージを与える。
化け物と化したシンジは、叫びを上げながら地面に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……」
俺は双剣を下ろし、深い息を吐き出した。戦闘の激しさが体中に残る中、リナの声が遠くで聞こえる。
【配信コメント欄】
「天城くん、よくやった!」
「てか、相手化け物すぎないか?」
「これ、ギルドニュースのヘッドラインで拡散されるの楽しみすぎる!」
「天城くん、まじで正義のストレンジャーだな!」
俺は、倒れたシンジの姿を見下ろした。
「エドガー、あなたの無念、少しは晴れたかな……」




