第六十九話 すでに勝負は終わっています
「シンジさん……アンタは今みたいに、信頼しているギルドの仲間を財宝欲しさに殺(PK)してきた。そうでしょう?」
俺の言葉に、シンジは一瞬だけ目を細めた後、不敵な笑みを浮かべた。
「ククク……さあてねえ……」
「エドガーもその一人ですね?」
その名前を出した瞬間、シンジの笑みが一瞬で消えた。
「エドガー……。なんでお前、そのことを……!」
俺は静かに言葉を続けた。
「あの時も、アンタは今の俺にやったように、仲間だと思って安心していた彼の背後から剣を突き刺した」
シンジは短く舌打ちをした後、口元に歪んだ笑みを浮かべた。
「……ああ、バレてんじゃあしょうがねえ。その通りだ」
朗々と語るシンジ。
「アイツがゲットしたアイテムをギルドに無償解析に渡そうとしてるもんだからよ。昔からウマが合わなかったからちょうどよかったぜ」
その言葉に胸がざわつく。だが、俺は冷静を装って問いかけた。
「そのアイテムは、今どこに?」
「ん? ああ、適当にその辺のアイテムショップに売ったよ。おかげでたんまり金が入ったから、それで傭兵を雇ってランク上げて、新宿支部長まで辿り着けたぜ!」
シンジの声には、自分の行動を誇るような響きが混じっていた。その様子に、俺は心の中で拳を握り締めた。
(エドガーの家族は、彼を失った時、どんな思いを抱えたんだろう……)
シンジの言葉が胸をえぐる中、エドガーの家族の姿が脳裏に浮かぶ。父か母、もしかしたら妻や子供がいたのかもしれない。彼らがエドガーの帰りを待ち、そして、二度と彼が帰ってこないことを知った時――。
(この男は、そんな残された人たちの気持ちなんて、考えたこともないんだろう)
その想像が、怒りに火をつける。
(それは、俺が母と姉を失った時と同じ痛みだったはずだ)
ダンジョンの災害で失った母と姉。あの喪失感と絶望。胸が潰れそうなほどの悲しみが、エドガーの家族にもあったはずだ。
(こいつは――それを奪った人間だ)
「クズだな、アンタ」
「けっ、なんとでも言え。この世は弱肉強食なんだ。生き残って、のしあがったものが勝者なんだ。方法なんてズルくても卑怯でも、なんでもいいんだよ!!」
その言葉に、俺は深く息を吸い込んだ。
「今だって、お前をぶっころしさえすれば、証拠はねえ……」
シンジの声が低く、冷たい響きに変わる。
「ここからメンバーが待つ場所まで戻れば、俺は頼りになる支部長リーダーであり、誰も見つけることのできなかった財宝を見つけた英雄さ」
俺は無言で彼の言葉を聞き続けた。
「突然沸いたモンスターに殺されたお前のことを哀しんでいる優しいリーダー……それが俺だ!!!」
シンジが再びブロードソードを構え、戦闘態勢に入った。
「俺と戦うんですか? シンジさん」
俺の問いに、シンジは唇を歪めて笑った。
「ああ、その通りだ! お前を殺して、口封じするためにな!!」
その言葉には、もはやかつての仲間の影は欠片も感じられなかった。だが、俺は静かに槍を構え直しながら、冷静な声で応じた。
「……わかりました。ただ、もうすでに勝負は終わっています。残念ながら」
「な、何ぃ?」
俺の言葉に、シンジの目が見開かれる。




