第六十一話 ランクアップ
古代遺跡をテーマにしたダンジョンを進みながら、俺とリナは会話を続けていた。苔むした石の壁が淡い光に照らされ、独特の神秘的な雰囲気を醸し出している。
「天城くんって絶対、ランクDとかじゃないよね?」
リナが歩きながらふと口を開いた。
「……何の話だ?」
「だって、B級モンスターをあんなに軽々倒すんだよ? もしかして、わざと低ランクのままにして正体を隠してるとか?」
「いや、全然そんなんじゃなくて」
俺は苦笑しながら首を振った。
「今こうやってダンジョン探索をできてるのも、本当に最近の出来事なんだ」
「そんなすごいスキルを持ってるのに?」
「つい最近まではゴミスキルって呼ばれてたよ」
俺の言葉に、リナが驚きの声を上げた。
「ゴミスキル……?」
「そう。《過去視》は、1秒前の過去しか見えない。ただそれだけのスキルだったんだ」
「そんなふうには見えないけど……」
リナが首を傾げながら考え込む。
「天城くんが、その不遇のスキルをうまく活用していったんだね」
「まあ、そうなのかもしれない」
「でも、ここまで来れたのはスキルのおかげだけじゃない。リナのサポートがあるからだよ」
「えっ、そ、そんなことないってば!」
リナが顔を赤くしながら慌てて手を振る。その仕草に、俺は少しだけ口元を緩めた。
そんな俺たちのやり取りを、配信コメント欄が逃すはずもなかった。
【配信コメント欄】
「天城お前…リナちんを何てことを!!」
「リナちん赤くなってる! 超可愛い!」
「これもう公式カップルってことでいいですか?」
「天城の爆発まだ?」
「このイチャイチャの続きはいつ見れるんです?」
「推しがイチャついてるとか…………最高です!」
「うわっ……またかよ……」
俺が顔を引きつらせる中、リナが笑顔でドローンに向かってウィンクを飛ばした。
「はいはい、リナ親衛隊のみんな! 天城くんと私は相棒だから! ラブラブじゃないからね! たぶんね!」
「たぶんって何だよ……」
俺が呆れた声を出すと、リナが楽しそうに笑い声を上げた。
そのとき、再び遠くから足音が響いてきた。
「来たぞ……」
「えっ、また!?」
リナが肩をすくめながら後退し、俺は槍を構えた。奥から姿を現したのは、新たなB級モンスターの一団だ。
【モンスター情報】
モンスター名:スケルトンウォリアー
種別:敵モンスター
ランク:B
HP:180/180
攻撃力:40
説明:古代遺跡を徘徊する骸骨兵士。高い防御力と迅速な動きで敵を翻弄する。
【スキル】
1.骨の刃:強力な斬撃を繰り出す
2.再構築:一定時間後に自己修復する
「スケルトンウォリアーか……!」
「これ、かなりタフそうだね……!」
リナが呟く中、俺は一歩前に出た。
「タフだろうが何だろうが、関係ない!」
「また出た! 天城くんの『関係ない』理論!」
リナが苦笑しながらドローンを操作する中、俺は槍を振り上げ、突進してきたスケルトンに向かって突進した。
槍の一撃がスケルトンの胸を貫き、その体を粉々に砕いた。同時に追加効果の衝撃波が周囲のモンスターに広がり、一瞬で2体を倒した。
「すごい! 天城くん、本当に強いね!」
リナの声が後方から響く中、俺は次のスケルトンに向かって槍を振り抜いた。その刃が骸骨の胴体を断ち切り、その体が崩れ落ちる。
「はあああああっ!」
最後のスケルトンに向かって槍を突き刺し、その巨体が地面に沈む音がダンジョン内に響き渡る。
「ふぅ……」
俺は槍を下ろし、息を整えた。
その時、耳元に軽い電子音が響いた。
【ランクアップ推奨】
現在のランク:D → 推奨ランク:C
冒険者ギルドでのランク更新を推奨します。
「ランクアップか……」
俺が表示を見て呟くと、リナが近づいてきて画面を覗き込んだ。
「おおっ! 天城くん、私と同じランクCだね! やったじゃん!」
「……そうだな」
俺が小さく頷くと、リナが明るい笑顔を見せた。
モンスターを全て倒し、ダンジョンの奥へと進むと、目の前に巨大な扉が現れた。両サイドには古代文字が刻まれており、中心には大きな紋章が描かれている。
「これは……」
俺が立ち止まり、扉を見上げながら呟いた。
「ダンジョンボスがいる部屋の扉か?」
「そうみたいだね」
リナが頷きながらドローンを操作し、扉の周囲を撮影している。
その時――扉の奥から、悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「うあああっ……!」
「今の……聞こえた?」
リナが驚いた表情で俺を見上げる。
「ああ。行こう!」
俺は躊躇せず、扉に手をかけた。その先に待ち受けているものが何であれ、進むしかない。




