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第五十六話 《謎の声》の正体

月宮朱音の問いに、俺は一瞬息を呑んだ。


「えっと……まあ、ちょっと……」


「ちょっと?」


朱音が眉をひそめながら問い詰めてくる。その視線に、俺はギクリと肩を引いた。


(くそっ、鋭い……!)


「学校よりも……大事な用事があったというか、その……」


言葉を濁しながら何とか誤魔化そうとしたが、朱音はさらに詰め寄ってきた。


「ねえ、さっきから何を隠してるの? これって天城くんだよね? リナちゃんって人と一緒に悪い人たちを倒してた……あれ、全部本当のことなの?」


そう言って彼女はスマホを掲げた。そこには、リナの配信のスクリーンショットが映っていた。


朱音の目は驚きと困惑、そしてどこか焦燥感を含んでいる。その視線に、俺は観念するしかなかった。


「……そうだよ。あれは俺だ」


小さく答えながら、胸の中にざわつくものを感じた。彼女の目の奥には何かを求めるような色が浮かんでいる。


「どうしても、やらなきゃいけないギルドの依頼があって……」


「ギルドの依頼? 天城くん、ギルドに所属してるの?」


朱音が一歩近づいてくる。その声には、純粋な興味と少しの戸惑いが混じっていた。


「ああ……『暁の刃』に入団したんだ」


俺の言葉を聞いた瞬間、朱音の目が見開かれる。


「『暁の刃』!? 国内最大のギルドじゃない!?」


「まあ、そうだけど……」


「入団試験の倍率、100倍って聞いたことあるよ!? 天城くんが……本当に?」


彼女の声が少し震えている。驚きと戸惑い、そして焦りが混ざったような感情が見え隠れしていた。


「何から何まで急すぎて……信じられないよ。あのクラスメイトの天城くんが……」


彼女の言葉がどこか遠く感じられた。その視線には、俺が今まで見たことのないような感情が宿っているように思えた。


(月宮さん……何かを気にしている?)


「じゃ、じゃあそんな感じで!」


俺はその空気に耐えきれず、言葉を切り上げてその場を離れようとした。


「えっ、ちょっと! 天城くん!」


朱音の声が遠くから聞こえたが、俺は振り返らずにその場を後にした。心の中で何かを誤魔化すように、足早に家へと向かった。


家に帰り着いた俺は、マジックバッグを取り出し、中身を確認し始めた。バッグの中には、これまで手に入れたA級アイテムたちが整然と収まっている。


(蒼狼の戦靴……天狼の槍……金剛の盾……聖剣エクレール、それに祝福の指輪)


それらを一つずつ見つめながら、心の中で次の準備を整える。


(新宿区支部に行くんだ……あのシンジ・ハザマに会うために)


エドガーの記憶が蘇る。彼を裏切り、命を奪った犯人――その男に会うことが現実のものとなろうとしている。


(俺が本当に……あいつと向き合えるのか?)


胸が高鳴り、手が震える。それでも、後戻りするわけにはいかなかった。


(エドガーを失った家族たちも辛かったはずだ……俺が母と姉を失った時の想いと同じくらいに)



「……俺がやるしかない」


静かに呟きながら、バッグを閉じた。


その晩、布団に潜り込んだ俺は、強い緊張感を抱えたまま眠りに落ちた。そして――奇妙な夢を見た。


闇の中、どこまでも広がる空間。


その中で、謎の声が響いてくる。


それはかつて《過去視》の使い方を教えてくれた声だ。


《お前のスキルは、この程度では終わらない。まだまだ進化する》


《この私――大魔導士スペリシアのユニークスキルなのだから》


《早く私の元まで辿り着け》



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