第四十四話 ギルドリーダー、イザナ=カグラ
『暁の刃』本部ビルの最上階、ギルドリーダーの執務室に案内された俺とリナ。部屋は広く、壁一面には古代遺跡やダンジョンで発見されたと思われる装飾品や武器が飾られている。そのどれもが高価そうで、歴史の重みを感じさせるものだった。
「……すごい部屋だな」
俺がつぶやくと、リナも興奮した様子で周囲を見渡していた。
「うわー、これ絶対映えるじゃん! 撮影禁止なのが本当に悔しい!」
「いや、そんなことよりリーダーが来るんだぞ……落ち着けよ」
「天城くんこそ緊張してるじゃん!」
そんな会話を交わしながらも、俺たちは部屋の中央にある大きなソファに座った。
「もうすぐリーダーが来る。少し待っていてくれ」
不意に声がかかった。その声の主を見ると、模擬戦で俺と戦い、そして敗れた男だった。
「……あなたは」
俺が驚いていると、彼は軽く頭を下げて微笑んだ。
「覚えているよな。模擬戦で君と戦った男だ。あの時の君の戦いぶり、見事だった」
「そんな……俺はただ必死にやっただけです」
「それでいい。Dランクとか関係なく、その覚悟と闘志が採用合否の決め手になったんだ」
彼の真摯な言葉に、俺は思わず背筋を正した。
「当然です。私のパートナーですから!」
突然のリナの発言に、俺は心臓が跳ね上がった。
「い、いきなり何言い出すんだよ!」
「だって本当じゃん! 天城くん、これからも私と一緒に頑張ろうね!」
彼女の明るい笑顔に、俺は呆れつつも少しだけ安心してしまう自分がいた。
(ダンジョンエンジェル・リナの破天荒な物言いには、いつも驚かされるな……)
そんなことを考えていると、執務室の扉が静かに開いた。
部屋に入ってきたのは、一人の壮年の男だった。高い背丈に広い肩幅、短く整えられた髪と鋭い目つきが印象的だ。その姿には威圧感と風格が漂い、一目でただ者ではないと分かった。
「彼が……」
「そう、ギルドリーダーのイザナ=カグラ様だよ」
リナが小声で教えてくれた。イザナ=カグラ――『暁の刃』を率いるギルドリーダーであり、数々の戦果を上げてきた伝説的なストレンジャーだ。
「二人とも、よく来てくれたな」
イザナは低く落ち着いた声で話しながら、俺たちに手を差し出した。その大きな手と穏やかな微笑みが、彼の人間味を感じさせた。
イザナに促され、俺たちはソファに座り直した。彼はその向かいに腰を下ろし、ゆっくりと話し始めた。
「世界にダンジョンゲートが生まれて以来、人類は休まる時がなく追い詰められてきた。いつ何時、魔物に襲われるか分からないという不安の中で、多くの人々が生活している」
その言葉に、俺の胸がざわつく。
「家族を失った者も多い」
イザナがそう言った瞬間、脳裏に母と姉の顔が蘇った。数年前、ダンジョンゲートから溢れ出た魔物に襲われ、俺の大切な家族は命を落とした。その記憶が胸に刺さる。
「しかし一方で、ダンジョンゲートが生み出されたからこそ、さまざまな恩恵もあった」
イザナの話は続く。
「魔法、テクノロジー、未知の古代遺跡、優れた武器やアイテム……これらを活用し、研究することが、人類にとって大きな一歩となる」
イザナの言葉に、俺は自然と頷いていた。それはまさに、過去視を通じて見たエドガーの考えそのものだった。
「我ら『暁の刃』は、そのために存在している。人類の進歩のために」
彼の言葉には、揺るぎない信念が込められていた。
「君たちにも、それを手伝って欲しい。ようこそ、『暁の刃』へ」
その言葉に続くように、俺たちの目の前にウィンドウが浮かび上がった。
【ギルド所属情報】
所属ギルド:暁の刃
役職:メンバー
「やったー! ついに『暁の刃』の一員だよ!」
リナが歓喜の声を上げている。俺も心の中で感動を覚えながらも、どこか胸に引っかかるものがあった。
(エドガーを殺した奴も、このギルドの中にいる……)
信念を語るイザナの言葉に感銘を受けつつも、同じギルドの中で彼を裏切った者がいるという事実に違和感を覚える。
「そういえば、君……天城蓮といったか」
イザナが俺の方を向き、微笑みながら問いかけてきた。
「貴重なA級アイテムをたくさん持っているんだって? どこのダンジョンで手に入れたんだい?」
「えっ……」
その質問に、俺は一瞬言葉を詰まらせた。




