第四十一話 入団模擬戦②
俺の名前が呼ばれると、視線が一斉に集まった。模擬戦のエリアに向かうと、周囲のオーディエンスからざわめきが聞こえる。
「ランクDなのに、参加してんのかよ」
「勇気だけは褒めてやるけどさ、あれ絶対やられるだろ」
冷やかし半分の声が飛び交う中、俺は何も言わずに静かにエリアの中央へ進んだ。
「天城くん! 頑張れー!」
リナの声援が響いた。彼女は手を振りながら明るい声で応援してくれている。
「見返してやれー! 天城くん、負けないでー!」
その可愛らしい声援に、周囲が一瞬ざわめく。俺は耳まで熱くなりながら、なんとか平静を保とうとする。
「……ありがとう」
小さく呟いたその瞬間、対戦相手の男が剣を構えながら近づいてきた。
男は落ち着いた動きで剣を構え、その眼差しは鋭い。同時に周囲のオーディエンスがざわめき始める。
「おい、あの相手……暁の刃の中でもかなりの手練だぞ」
「マジかよ。あんな奴が相手じゃ、ランクDのやつに勝ち目なんかないだろ」
そんな声が飛び交う中、俺は静かに槍を構えた。相手の実力を肌で感じる。
(簡単には勝たせてくれなさそうだな……)
男がゆっくりと間合いを詰めてきた。
「もうスタートの合図はかかってるぞ?」
その冷静な声と同時に、鋭い剣が俺に向かって振り下ろされた。
「っ……!」
咄嗟に足を動かし、蒼狼の戦靴の力で素早く後方に跳ぶ。剣が空を切り、男の表情が僅かに変わった。
【蒼狼の戦靴】
種別:防具/靴
ランク:A
説明:素早さとジャンプ力を飛躍的に向上させる魔法の靴。軽量で耐久性が高い。
【付与効果】移動速度+20%、ジャンプ力+30%
「速いな……」
男が呟いたその瞬間、俺は槍を突き出して攻撃に転じた。
【天狼の槍】
種別:武器/槍
ランク:A
説明:鋭い刃と高い攻撃力を持つ武器。スキル発動時に追加ダメージを与える能力を持つ。
【付与効果】物理ダメージ+40%、スキル発動時追加ダメージ
「はっ!」
槍を鋭く振り抜くと、男は剣でそれを受け止めた。金属音が響き、お互いに間合いを取りながら次の動きを探る。
「やるじゃないか」
男が少しだけ口角を上げながら剣を構え直した。
「だが、これでどうかな?」
男が低い声で呟きながら、剣を振りかざした。その刃が青白く輝き始める。
「《ウィンドブレード》!」
男の剣から風の刃が放たれ、一気に距離を詰める攻撃が襲いかかる。
「くっ……!」
俺は再び蒼狼の戦靴の力でバックステップを取り、なんとか風の刃をかわした。しかし、男はその隙を逃さず一気に接近してくる。
「これで終わりだ!」
鋭い一撃が俺の槍を弾き飛ばしそうな勢いで振り下ろされた。
「させるか!」
俺は槍を振り回し、男の剣を受け止めた。金属音が何度も響き渡り、お互いの攻撃が火花を散らす。
「おい、あいつが装備してるアイテム、全部A級だぞ……」
「すげえな。あれ、どっから持ってきたんだよ」
観客たちがざわめく中、リナが嬉しそうに声を上げた。
「それだけじゃなくて、実力もすごいじゃん!」
彼女の応援が耳に届き、自然と力が湧いてくる。
「くっそー! 撮影OKだったら絶対配信してるのに! さいっこうの配信対象見つけちゃったよ!」
リナの明るい声が俺の背中を押す。
男は静かに剣を構え直し、目の前の俺をじっと見つめていた。その鋭い眼光には、今まで以上の緊張感が宿っている。
「なかなか歯応えのある奴が挑んできたな……」
低く呟きながら、男の唇が微かに上がる。
「ギルドリーダーには申し訳ないが、少しだけ本気を出させてもらおう」
独りごちながら、男の剣が再び光を帯び始めた。その刃が青白い輝きを放ち、空気が揺れる。
「行くぞ!」
男が一気に間合いを詰め、剣を振り下ろす。その動きはさっきまでよりも格段に速く、鋭い。
「っ……!」
俺は蒼狼の戦靴の力で間一髪でかわし、素早く距離を取った。
「いい反応だ」
男が冷静に言いながら剣を構え直す。その余裕ある態度が、彼の実力の高さを物語っていた。
俺が距離を取って体勢を立て直そうとする間に、男は静かに剣を下ろした。そして、何事もなかったように一歩後退する。
(……?)
一瞬だけ違和感を覚えたが、次の瞬間、その理由が分かった。彼の口がゆっくりと呪文を紡ぎ始めていたのだ。
「さあ……これはどうかな!」
男が剣を掲げると同時に、その周囲に炎の渦が巻き起こる。そして、彼の刃先が赤く輝き、熱風が周囲に広がった。
【バーストフレア】
種別:魔法スキル
ランク:B+
説明:剣を媒介にして放たれる炎系の高位魔法。広範囲に高威力の炎を放射し、敵を焼き尽くす。
「《バーストフレア》!」
彼が放った炎系の高位魔法が、一気に俺を襲った。空間全体が熱で歪むほどの威力を持つ炎が一直線に迫ってくる。
「くっ……!」
足を動かそうとしたが、間に合わない。
ドォン!!
爆発音と共に、俺の視界が赤い光で染まる。衝撃波と共に炎が体を包み込み、後方へ吹き飛ばされた。
「天城くん!!」
リナの悲鳴が遠くで聞こえる。全身に鈍い痛みが広がり、床に転がった俺は、何とか体を起こそうと力を込めた。
「まだ……終わりじゃない……!」




