第四十話 入団模擬戦①
「さあ、天城くん! 試験、頑張っていこうね!」
リナが俺の肩を軽く叩きながら、キラキラとした笑顔を浮かべている。その勢いに、俺は思わず口元を引きつらせた。
「いや、頑張るのはいいんだけど……」
「ん? 何?」
「なんでそんなにノリノリなんだよ」
「だって面白そうじゃない! 『暁の刃』の入団試験だよ? 一生に一度の経験になるかも!」
彼女の明るい声に押されるように、俺も会場の中へと足を踏み入れた。
最初の試験は基礎能力を測るものだった。ランニングや筋力測定、反射神経のテストなど、シンプルな内容だが、地味に体力を削られる。
「天城くん、走るの遅いよー! 頑張って!」
ランニングの途中、俺を追い抜きながらリナが振り返って声をかけてくる。その笑顔は応援というよりも、完全に楽しんでいる感じだ。
「お前、余裕すぎだろ……!」
「Cランクだもん! ほら、あとちょっと!」
俺は息を切らしながらなんとかゴールした。
「筋力測定もやるんだって! 天城くん、腕立て伏せ、どれだけできる?」
「……10回くらい?」
「ええっ!? 私の方が多いかも!」
リナは笑いながら腕立て伏せを始めた。彼女の軽快な動きと比べて、俺の体はすでに悲鳴を上げていた。
(これ、ギルドに入る前に体力が尽きるんじゃ……)
そんな不安を抱えながらも、なんとか最初の試験を終えた。
「次は模擬戦闘だって!」
試験官から説明を受けると、今度は実際に武器を使った戦闘テストが行われることが分かった。リナが目を輝かせながら説明してくれる。
「これがこの試験の本番だよ! 今までの体力測定とかはおまけみたいなもので、模擬戦闘の成果でほとんど結果が決まるんだって!」
「そんなに重要なのか……」
「当たり前じゃん。『暁の刃』は最前線で戦うギルドだよ? 戦闘力を見られるのは当然でしょ!」
彼女の言葉に、俺は自然と気を引き締めた。ここで実力を見せられなければ、この試験に受かることはない。
「おっ、私が呼ばれたみたい!」
試験官から名前を呼ばれると、リナは嬉しそうに手を挙げてエリアへ向かう。
「頑張ってこいよ!」
「うん! 見ててね!」
そう言って笑顔を見せると、リナは軽快な足取りで模擬戦闘のエリアへと向かった。
対戦相手はギルドの現役メンバーで、全身にしっかりとした装備を身にまとっている。彼が剣を構えると同時に、リナも軽やかに槍を構えた。
「始め!」
試験官の合図とともに、二人が動き出す。リナの動きは驚くほど俊敏で、相手の剣を避けながら鋭い突きを繰り出していく。
「すごい……」
俺は自然と彼女の戦いに見入っていた。軽やかな足捌きと的確な攻撃。その一つ一つに、彼女がこれまで積み重ねてきた努力が見える。
相手もさすがギルドメンバーとあって、リナの攻撃を防ぎながら反撃を繰り出すが、彼女はそれを的確に避け、再び攻撃のチャンスを掴む。
(……強いな)
見惚れるような戦いが続く中、試験時間が終わりを迎えた。リナは最後まで粘り強く戦い抜き、相手にしっかりと実力を見せつけた。
「頑張ってきたよ!」
リナがエリアから戻ってくると、彼女の顔には達成感が浮かんでいた。
「お疲れ。すごかったぞ」
素直な感想を伝えると、リナはにっこりと笑った。
「ねえ、ずっと私のこと見てたでしょ?」
「ああ、そりゃ応援してたからな」
そう答えた瞬間、リナの目が意味ありげに細められた。
「ずっとスカートの中見ようとしてたし。えっち」
「はぁ!?!」
思わず声を上げる俺に、リナは楽しそうに笑った。
「ふふっ、ウソウソ。応援ありがとね!」
彼女がウィンクをしてきたその瞬間、俺は完全に言葉を失った。
「いったい……なんなんだよ」
呟きながらも、彼女の明るい笑顔にどこか救われている自分がいた。




