第三十九話 ダンジョン配信者(エンジェル)・リナ
「次の方、どうぞ!」
受付の明るい声に促され、俺は一歩前に出た。『暁の刃』入団試験の受付は、簡素ながらも整然とした雰囲気で、対応している職員たちはみなプロフェッショナルな印象を受ける。
「ここに名前と現在のランク、ギルド所属の有無を記入してください」
渡された申請用紙にペンを走らせる。
【申請内容】
名前:天城蓮
ランク:D
ギルド所属:なし
記入を終え、用紙を受付に渡す。手続きを進める職員の手際の良さに感心していると、ふと横から視線を感じた。
(……見られてる?)
チラリと横目で確認すると、そこにはニコニコとした笑顔で俺を見つめているリナの姿があった。
「……何か?」
思わず声をかけると、リナはさらに明るい笑顔を浮かべた。
「いやー、真剣に手続きしてるなぁって。初々しい感じがいいね!」
「そ、そうか?」
俺は少し戸惑いながら答えた。まさか美少女にガン見されるなんて経験は初めてだった。
「私、こういうのは慣れっこだからさ。ほら、ランクCになったばかりなんだけど、これまでにもいろいろ試験を受けてきたから」
リナが自信満々に言う。その明るさに、つい気後れしてしまう。
リナの理由
「じゃあ、なんでこのギルドに?」
リナに尋ねると、彼女は少し得意げな表情になった。
「決まってるじゃない! 国内最大のギルドに入りたいと思ったからよ!」
「……そりゃそうだ」
「あ、あとね、私、ダンジョン配信が趣味なの。これでも配信者で、いろんなダンジョンをドローンで撮影して、それを配信してるんだ!」
「ドローンで配信……!」
俺は驚きとともに感動してしまった。ダンジョン配信――冒険者たちが行う、命がけのリアルタイム映像を世界に届ける活動。それは俺のような無名のストレンジャーには縁遠いものだと思っていた。
「配信名は何なんだ?」
何気なく聞いた俺の質問に、リナは軽く胸を張りながら答えた。
「『ダンジョンエンジェル・リナ』。知ってる?」
「……えっ?」
俺は一瞬、頭が真っ白になった。その名前は、ダンジョン配信を観る者なら誰もが知る有名アカウント。俺も何度かその配信を観たことがある。
「嘘だろ……あの、リナ……?」
「そうそう! だから私がリナだって言ってるじゃん!」
「そっくりだとは思ってたけど……」
「そっくりじゃなくて、本人だし!」
彼女がツッコミを入れ、俺はただ頷くしかなかった。有名な配信者が目の前にいるという事実に、内心で動揺を隠せない。
「じゃあ、天城くんはなんでこのギルドに?」
リナが軽い調子で尋ねてきた。その質問に、俺は一瞬言葉に詰まる。
(エドガーの死の真相を探るため――なんて、言えるわけがない)
「えっと……その、いろいろあって……」
曖昧に答えると、リナは首を傾げながらも、すぐに納得した様子で笑った。
「ふーん、そうなんだ!」
リナは続けて、
「じゃあさ、天城くんもダンジョン配信を目指してるの?」
「えっ?」
唐突な質問に、思わず聞き返してしまう。
「だってさ、ここまで来るってことは、ストレンジャーとして目立ちたいとか、配信者になりたいとか、そういうのが理由でしょ?」
「いや、それは……」
俺が否定する前に、リナは嬉しそうに手を叩いた。
「分かった! じゃあさ、私と一緒に活動しようよ! 手伝ってあげる! 目指せ大手事務所所属!」
「えっ、ちょっと待って――」
「大丈夫! 私が教えるからさ!」
リナの勢いに、俺は完全に押されてしまった。
「よ、よろしくお願いいたします……」
気がつけば、そう口にしていた。リナの笑顔とエネルギーに圧倒されながらも、彼女の誘いを断ることができなかった。
(これで……どうなるんだろう)
入団試験が始まる前に、妙な展開に巻き込まれた俺の胸には、不安と期待が入り混じっていた。




