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第三十五話 冒険者の亡骸の記憶

気がつくと、目の前には見覚えのある風景が広がっていた。だが、これは俺の記憶ではない――目の前に横たわる骸骨の過去。映し出されたのは、その男がまだ生きていた頃の一場面だった。


――――――――


「ようやく……見つけたか」


私は狭い空間の中で、汗をぬぐいながら息を整えた。この場所を見つけるまでに、どれだけの時間を費やしただろうか。周囲を見渡せば、瓦礫に覆われた壁や天井の傷跡が、ここが誰の目にも触れずに長い時間を過ごしてきたことを物語っている。


「間違いない。この奥に……」


目の前には、さらに奥へと続く厳重な扉があった。その表面には複雑な紋様が刻まれ、何か特別な力で封じられているようだった。


(ここに何が眠っているんだ……)


期待に胸を膨らませながら、扉に手を伸ばそうとした時、背後から声が響いた。


「おい、エドガー。お前だけで先に進むつもりかよ?」


振り返ると、そこには三人のギルドメンバー――いや、今やかつての仲間たちが立っていた。その顔には、連携して冒険してきた頃の信頼感は一切残っていない。あるのは欲望に染まった目だけだった。


――――――――



「……っ!」


目の前の骸骨――その過去が、俺の脳内に直接流れ込んでくる。映像だけではなく、感情や思考までもが鮮明に伝わってくるのが分かった。


(これが……エドガーの記憶)


俺はその記憶の中にダイブし続ける。


――――――――



「これは……」


私は部屋の中央にある小さな台座を見つめ、唾を飲み込んだ。その上には、まるで宝石のような輝きを持つ不思議な結晶が置かれている。それは、今まで見たことのない未知の素材だった。


(この結晶……ただの宝石ではない。何か特別な力を秘めている)


直感がそう告げていた。この場所――ギルドのデータにも記されていなかった天井裏の隠しエリアには、まだ誰も知らない秘密が隠されているのだ。


「冒険者ギルドに持ち帰って分析してもらおう」


そう呟いた私の声が部屋に響く。これは単なる財宝ではない。未知の力を持つ可能性があるこの結晶を、ギルドの研究者たちに無償提供し、全ての冒険者の未来に役立てる。それが私の使命だと信じて疑わなかった。


(ここ最近、ダンジョンゲートが世界中に生まれ、街や人々が混乱している……)


ダンジョンゲートがもたらす現象の謎。その解明には、この結晶のような未知の素材が鍵を握るかもしれない。全人類のために――冒険者としての誇りを胸に、私はこの結晶をギルドに届ける決意を固めた。


「これは……全ての人類のためのものだ」


そう信じ、台座の結晶に手を伸ばした。


「おい、エドガー!」


背後から聞き慣れた声がした。振り返ると、ギルドメンバーの三人――いや、かつての仲間たちが立っていた。


「これをギルドに持ち帰るつもりかよ?」


剣を持った男が鼻で笑いながら近づいてくる。その目には、明らかな敵意と嫉妬の色が浮かんでいた。


「もちろんだ。この結晶は貴重なものだ。冒険者ギルドに渡せば、新たな発見に繋がるかもしれない」


私が静かにそう答えると、彼らの笑みがさらに歪んだ。


「偽善者ぶるなよ、エドガー」


斧を持った男が吐き捨てるように言った。


「少しギルドから評価されたからってよぉ、調子に乗りやがって」


「……」


私は何も言い返さなかった。確かに私は、これまでの冒険でギルドから一定の評価を受けていた。それが彼らにとって、面白くないことだというのは分かっていた。


「俺たちの稼ぎだって、お前のせいで全部ギルドに回されちまったよなぁ?」


杖を持った男が、冷たい笑みを浮かべながら言った。


「違う。それは皆の安全を守るために必要だった」


私は毅然として言い返した。だが、彼らは嘲笑を止めなかった。


「安全だ? 偉そうに言いやがって……!」


剣を持った男が一歩踏み出した。その瞬間、私は背後に気配を感じた。


「……っ!」


振り返る間もなく、鋭い刃が私の背中を貫いた。痛みが体中に広がり、膝をつく。


「お前みたいな偽善者は……邪魔なんだよ!」


怒りの声が背後から響く。その瞬間、私は短剣を握りしめ、咄嗟に振り返った。


「くっ……!」


背中から流れる血の感覚を無視しながら、短剣を突き出す。刃先が剣を持った男の肩をかすめ、彼が僅かに後退する。


「こいつ……まだ抵抗する気かよ!」


斧を持った男が横薙ぎに攻撃を仕掛けてきた。私はそれを何とか身を捩ってかわすが、背中の痛みが体の動きを鈍らせていく。


「やめろ……! 俺がやろうとしていることは……!」


「黙れ!」


杖を持った男が呪文を詠唱し始め、その手から放たれた小さな火球が私の足元を爆ぜる。爆風で体勢を崩し、再び床に倒れ込んだ。


「お前に何ができるってんだよ、偽善者が!」


「宝は……ギルドの……」


力が抜けていく中で、私は最後の力を振り絞ろうとしたが、体はもう言うことを聞かなかった。


「……この場所を……穢すな……」


それが私の最期の言葉だった。視界が完全に暗転する中、仲間だったはずの彼らが結晶に手を伸ばしていくのが見えた。


――――――――


「……っ!」


俺は現実に引き戻された。目の前の骸骨を見つめ、先ほどまでの映像が頭の中で鮮明に再生されていた。


(この人……エドガーは……)


瓦礫の中に横たわる骸骨。それがかつて命を賭けて未知の力を守ろうとした冒険者であることを理解し、胸がざわついた。




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