第三十四話 過去視の秘密
俺は骸骨を見つめながら、心の中で自分のスキル《過去視》について改めて考えた。このスキルをずっと「ゴミスキル」だと思っていたのには、それなりの理由がある。
(たった1秒――それも、未来ではなく過去しか見ることができないなんて、どう考えてもゴミだ)
スキルを初めて知った時の失望を思い出す。俺に与えられた力は、周囲のストレンジャーたちが使う強力な攻撃魔法や補助魔法と比べて、あまりにも地味で、役に立たないように見えた。
(仮に重ねがけができるとしても、1分前の過去を見るためには60回もスキルを発動しなければならない。それに、その60回を発動するまでに1分以上かかってしまう)
その上、スキル発動には精神力が必要で、連続して使えば使うほど疲労が溜まる。現実的に考えても、1分前を見るために1分以上費やすような能力は、ほとんど意味がない。
(無意味すぎるスキルだと思っていた)
俺は溜息をつきながら、過去にそのスキルを諦めかけた自分を思い出す。だが、今の俺は違う。
(それでも、俺は愚直にやり続けた)
先日の謎の声によって、俺はこのスキルを使い続ける意欲を掻き立てられた。あの声が「やれ」と言ったからではなく、何か可能性を信じたかったからだ。
(正直、自分でも馬鹿げていたと思う。だって、1日分遡るだけで、60秒×60分×24時間――86400回のスキル発動が必要なんだから)
実際に、過去視で朽ちたアイテムの【封印を解放】した時も、そんな途方もない回数を無我夢中でスキルを発動していた。それが結果的に成功に繋がったものの、改めて考えると自分の行動に呆れるしかない。
(でも……あの結果を見た時、俺は確信した)
俺の予想に過ぎないが、このスキルには単なる「重ねがけ」の効果だけではない可能性がある。
(ある一定のスキル回数を超えると……加算効果だけじゃなく、掛け合わせの『乗算効果』が発動しているんじゃないか?)
具体的には、スキル回数を重ねるごとに、過去を遡る速度が指数的に加速しているように感じる。
(1秒が2秒に、2秒が4秒に。4秒が16秒に……16秒が256秒に。そうやって過去をどんどん遡れるようになっている――)
朽ちたアイテムを掘り起こした時も、この効果があったからこそ、何百年も前の過去にたどり着けたのだろう。
(だったら、このスキルを使えば……)
俺は目の前の骸骨を見据えた。この人物がどんな過去を持ち、どんな運命を辿ってここで命を落としたのか――その全てを知ることができるはずだ。
「よし……やるぞ」
俺はスキルを発動する準備を整えた。いつものように集中し、過去視の効果を骸骨に向けて発動する。
「《過去視》!」
視界がゆっくりと歪み、骸骨の1秒前の姿が映り込む。当然ながら、1回のスキル発動では何も分からない。だが、ここで諦めるわけにはいかない。
「もう一回……!」
スキルを重ねがけするたび、視界が少しずつ過去へと遡っていく。何度も何度もスキルを発動しながら、俺はこの骸骨の過去を掘り起こす決意を固めた。
「見せてくれ……お前に何があったのかを!」
声に出しながら、スキルを繰り返し発動する。視界がさらに奥深くへと遡り、徐々に骸骨の運命が浮かび上がろうとしていた。




