第三十三話 宝物庫の隠しエリア
「よいしょ……!」
崩れた天井の穴に飛びつき、どうにか隠された空間へと入り込む。手を使って体を引き上げると、そこは宝物庫の天井裏に隠された狭い空間だった。暗がりの中、瓦礫が散らばり、不気味な静寂が支配している。
「……なんだここは」
部屋は思ったよりも広く、壁のあちこちに損傷が見える。ひび割れた石材の隙間から冷たい空気が漂い、どこからか微かな滴り音が響いている。壁に備え付けられた灯りがぼんやりと部屋を照らしているが、それでも視界は限られていた。
「とにかく、調べてみるしかないな」
俺は足元の瓦礫を踏み越えながら、空間の奥へと進んだ。壁や床、天井をじっくりと見渡しながら、何か手がかりになるものがないか探す。
(本当にここに何かあるのか……)
目につくのは、散らばった石や崩れた構造物ばかり。宝物らしきものは一切見当たらない。期待が空振りに終わるのではないかという不安が胸をよぎる。
部屋の奥へ進むと、視界の隅に何か奇妙なものが映った。
「……なんだ?」
瓦礫の間に見えるのは、人間の手のようなものだった。しかし、それは肉を失い、骨だけになっている。
「これは……」
俺はゆっくりと近づき、膝をついて確認する。床に横たわるのは、完全に白骨化した人間の骸骨だった。骨は薄い埃に覆われ、装備品がいくつか身につけられている。
「ゴクリ……」
思わず唾を飲み込む。骸骨の身につけている装備は、明らかに高価そうだ。金属の光沢がわずかに残る鎧や、細かな彫刻が施された剣――それは名のある冒険者が使用していたものに違いなかった。
「ここで……死んだのか?」
この骸骨がどういう経緯でここに倒れているのか、頭の中で様々な可能性が浮かんでは消える。
「冒険者ギルドのメンバーだったのか、それとも……」
骸骨の周囲には、散らばった装備品や破損した武器がいくつか見える。それらの状態から、かつてここで激しい戦闘が行われたことがうかがえる。
(この空間を守る何かと戦ったのか?)
俺は骸骨を中心に周囲をじっくりと見渡した。床にはわずかな血痕の跡が残っているように見える。壁には深く刻まれた刃物の跡――それは、ここが単なる宝物庫ではなく、戦場でもあったことを物語っている。
「とにかく、冒険者ギルドに報告しないと……」
俺はそう呟きながら、骸骨の装備を確認し始めた。それらはどれも高度な技術で作られているように見え、かつてこの人物が熟練の冒険者だったことを証明している。
(だが、なぜここで死んだ? それに、この場所はどうして……)
疑問が頭を埋め尽くす中、ふと考えがよぎった。
(待てよ、この人の死因が……分かるかもしれない)
俺は顔を上げ、骸骨をじっと見つめた。頭の中に浮かんだのは、自分のスキル《過去視》だった。
(もし、この人がここで何をしていたのか、どんな最後を迎えたのかを視ることができたら……)
胸の中に緊張感と好奇心が入り混じり、鼓動が早まるのを感じた。
俺はゆっくりとスキルを発動する準備を始めた。この人物の過去――ここで起きた出来事を知るために。
「よし……やってみよう」
スキル発動に向けて集中しながら、俺は静かに骸骨に手を伸ばした。




