第三十二話 宝物庫
ブラッククロウズの3人を倒し、静寂が訪れた中、俺は宝物庫の鍵を握りしめ、扉の前に立った。
「……行くか」
鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりと回す。扉は鈍い音を立てて開き、中の様子が明らかになった。
「……何だ、これ」
俺が目にしたのは、期待とは裏腹に、がらんどうの空間だった。広い部屋の中には何もなく、ただの石造りの壁と天井があるだけ。床にはわずかな埃が積もっている。
「……がっかりだ」
宝物庫――その言葉に胸を膨らませていた俺は、落胆のあまりため息をついた。
(たくさんの宝があると思ってたのに……)
しかし、ふと気を取り直した。
(いや、何かあるかもしれない)
そう自分に言い聞かせ、部屋の中をじっくりと見渡した。
「さすがにこの鍵をゲットしたのは、俺だけじゃなかったみたいだな」
宝物庫への鍵はリポップする仕組みなのか、過去にも誰かがこの部屋に入ったのだろう。そう考えると、この空間が空っぽなのも納得がいく。
(でも……リポップするアイテムが何か残ってるかもしれない)
俺はその期待を胸に、部屋をくまなく調べ始めた。床、壁、天井――細部に目を凝らしながら、何か手がかりになりそうなものを探す。
「……これは?」
視線の先に、不思議なシミがあった。床の隅に広がるそれは、一見ただの染み付いた汚れのように見える。しかし、何かが引っかかる。
「これ、なんだ?」
俺はそのシミの上に膝をつき、手で触れてみた。冷たくて湿った感触が指先に伝わる。水が染み出たような跡にも見えるが、それだけでは説明がつかない。
「どうしてこんなところに……そうだ!」
俺はふと思いつき、スキル《過去視》を使うことにした。このスキルで、シミの過去を追ってみれば、何か分かるかもしれない。
【スキル:過去視】
説明:対象の過去1秒間の視覚情報を取得する。スキルの重ね掛けにより、さらに過去の情報を視ることが可能。
当然、1回の発動では1秒前のシミしか見えない。それでも俺は諦めず、スキルを繰り返し発動した。重ね掛けするたび、視界が少しずつ過去へと遡っていく。
(もっと……!)
何度目かのスキル発動で、俺はようやく気づいた。
「天井……?」
シミはどうやら天井から漏れ出てきた液体の跡だった。視線を上げると、石を組み合わせてできた天井に、僅かなズレと隙間があるのが見える。
「液体はあそこから滲み出てきたのか……」
その天井をじっと見つめていると、心の中に奇妙な直感が芽生えた。
(どこか、気になる……)
「よし、やってみるか」
俺は少し後方に下がり、床を蹴って走り出した。蒼狼の戦靴の力を最大限に活かし、壁を駆け上がる。
「いけ……!」
一歩、二歩、三歩と壁を伝い、ついに天井近くまで到達した。手に握った槍を振りかぶり、液体が滲み出ていた場所を突く。
「うおおおおお!!」
ドゴォォッ!!
槍が天井を貫いた瞬間、石が砕け、上から瓦礫が崩れ落ちてきた。慌てて飛び退くと、天井裏に隠された空間が姿を現した。
「……これは……!」
崩れた石の隙間から覗くその空間は、これまで誰にも見つけられていなかった場所のように見える。天井裏のそのスペースは、宝物庫のさらに奥深くに隠されていた。
(ここになら……まだ誰も見つけていない宝物があるかもしれない!)
俺は胸の高鳴りを抑えきれないまま、再びその隠された空間を見上げた。




