第二十八話 ギルド『ブラッククロウズ』
「おいおい、そんな警戒すんなよ」
チンピラの一人が手を広げ、余裕たっぷりの笑みを浮かべながら話しかけてきた。その横では、残りの二人もニヤニヤと笑いながら俺を見下ろしている。
「俺たちはBランクのストレンジャーだぜ? ギルド『ブラッククロウズ』のメンバーさ」
「ブラッククロウズ……?」
聞いたことのないギルド名だったが、その響きには明らかに悪意が込められている。彼らの不敵な態度が、ますますその印象を強めた。
「ほらほら、知らねえか? 冒険者の世界じゃちょっとした有名ギルドなんだぜ」
「俺たちは初心者たちにダンジョン攻略の手解きをしてやる、優しいストレンジャーなんだよなぁ?」
一人が軽く肩をすくめながら続けると、もう一人がニヤリと笑った。
「まあ、教育料をちょっぴり多めに取ってるけどな! ギャハハ!」
俺は彼らの軽薄な笑い声を聞きながら、内心で呆れていた。
(しらじらしい……こいつら、初心者ストレンジャーを狩って儲けてる小悪党ギルドに違いない)
彼らが「教育料」と称して取っているものは、きっと初心者たちの稼ぎや装備品だろう。それが目に見えるような話しぶりに、軽蔑の念が湧いてくる。
(こんな奴らに……何も渡すわけにはいかない)
俺は右手に杖を、左手に槍を構え直し、さらに警戒を強めた。
「なあ、そんな警戒すんなって」
チンピラのリーダーらしき男が、もう一歩近づきながら軽く手を振った。
「ソロでダンジョン攻略なんて危険だろ? 俺たちが一緒に行ってやるよ。ほら、お宝もきっちり分けてさ」
「……いらない」
きっぱりと答えると、男の表情が一瞬歪んだ。
「まあまあ、そう言うなよ。それに、目の前の宝物庫の中にも強力な魔物が潜んでるかもしれねえ。だから手伝ってやるよ。そのかわり宝はぜーんぶ、山分けでな」
「……」
俺は心の中で舌打ちした。
(山分けだと? どうせ全部俺から奪うつもりだろうが……)
チンピラたちの思惑が透けて見えるようで、自然と眉間に力が入る。マジックバッグに収めたA級アイテムを思い出し、それを守る決意がさらに強まった。
(このバッグだけは、絶対に渡すわけにはいかない!)
「ほら、まずはそのバッグを預かってやるから貸しな」
「……断る」
再び拒否すると、三人全員の顔が険しくなった。
「クソランクのくせに偉そうだな」
リーダーが忌々しげに吐き捨てる。
「分からねえなら……痛い目を見たほうが考え方が変わるかもな?」
次の瞬間、三人が一斉に武器を取り出した。一人は大きな斧、もう一人は鋭い剣、そして最後の一人は杖を構えている。
「ソロの間抜け冒険者一人消しても、誰も気にしねえよなぁ……」
挑発的な言葉と共に、三人がじわじわと間合いを詰めてくる。その目は獣のように鋭く、明らかな敵意を感じ取ることができた。
「やるしかない……!」
俺は右手の蒼炎の古杖を掲げ、炎の力を込めた。同時に左手の槍を構え直し、静かに呼吸を整える。
「来い!」
チンピラたちが一斉に動き出した。鋭い剣が光を反射し、斧が瓦礫を踏みしめながら迫ってくる。その動きは明らかに素早く、統率が取れている。
(まずいっ……!)




