第二十七話 宝物庫の鍵
ゴーレムが完全に崩れ落ち、静寂が訪れた部屋の中央。その足元に何かが光っているのが目に入った。
「これは……?」
慎重に近づき、それを拾い上げると、ホロウィンドウが浮かび上がった。
【宝物庫の鍵】
種別:特殊アイテム
ランク:A
説明:廃墟の迷宮内に隠された宝物庫を開くための鍵。通常の探索では入手できない隠しアイテム。
「宝物庫の鍵……?」
目の前のウィンドウを眺めながら、俺の頭には疑問が湧いていた。このダンジョンは、クズアイテムが大量に落ちていることで有名な場所だ。これまで、こんな高ランクの鍵があるなんて聞いたこともない。
(今まで、これを手に入れたストレンジャーはいなかったのか?)
俺は鍵を握りしめながら考える。この迷宮は初級ストレンジャー向けの訓練用ダンジョンだ。何度も攻略されているはずだが、このアイテムについての情報は一切ない。
(なぜ俺にだけ……?)
不思議に思いつつも、胸の奥に期待が湧いてくる。この鍵が示す場所には、ゴミアイテム以上の何かが眠っているのではないか――そんな予感がしてならなかった。
「……よし、探してみるか」
俺は鍵をマジックバッグにしまい、再びダンジョン探索を開始した。
廃墟の迷宮をくまなく調べながら、瓦礫や通路の奥を確認していく。壁面には苔が生え、崩れた柱があちこちに転がっている。何度も行き止まりに突き当たりながらも、諦めずに探索を続けた。
「ここは……?」
しばらく進むと、壁の一部が他と違う光沢を持っているのに気づいた。触れてみると、わずかに冷たく、振動が伝わってくる。
(これ、何かあるな……)
壁を手で押してみると、隠された扉がゆっくりと音を立てて開いた。
「隠し扉……!」
その向こうには、さらに奥へと続く厳重な扉が姿を現した。鉄製の扉には複雑な模様が刻まれており、中央には鍵穴があった。
(ここが……宝物庫の入り口?)
扉の重厚さに、俺は自然と息を呑んだ。
(中に何があるんだ……?)
鍵を握りしめながら、俺は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。ここには、何かすごいお宝が眠っているのかもしれない――そう考えると、期待と緊張が胸を満たしていく。
「おお〜、これはこれは、こんなところに隠し扉があるなんてなぁ〜。案内御苦労さん」
突然、背後から聞き慣れない声がした。
「……!」
驚いて振り返ると、そこには三人のストレンジャーが立っていた。いかにもチンピラ風情な男たちだ。ゴツゴツとした装備を身にまとい、ニヤニヤと笑いながらこちらを見下ろしている。
「お前、よくこんなところ見つけたな。たいしたもんだぜ」
一人が軽く拍手をしながら近づいてくる。その目は完全に油断していない獣のような目だった。
「……何の用だ?」
俺は咄嗟に杖を構え、警戒の姿勢を取る。だが、男たちは余裕たっぷりの笑みを浮かべたままだ。
「何の用って、決まってんだろ。お前が見つけたその扉の先――俺たちにも見せてくれよ」
「……断る」
きっぱりと答えると、男たちの表情がわずかに変わった。
「へえ……そう簡単にいかねえか。でもなぁ、お前一人じゃこんなもん扱いきれねえだろ?」
「そうだそうだ! 俺たちが手伝ってやるよ、その『お宝』ってやつをさ!」
三人がじわじわと間合いを詰めてくる。その姿を見て、俺は改めて武器を構え直した。
(こいつら……!)
緊張感がピークに達する中、扉を挟んで俺と三人のストレンジャーが対峙していた。




