第二十五話 ダンジョンボス戦②
俺はマジックバッグに手を突っ込み、中から一つのアイテムを取り出した。それは、小さなモノクル――片眼鏡だった。
【真視のモノクル】
種別:アクセサリー/片眼鏡
ランク:A
説明:対象の弱点を見抜くことができる魔法の片眼鏡。魔力を消費して使用可能。
【付与効果】弱点表示、対象の詳細情報の可視化
「これなら……!」
俺はモノクルを装着し、ゴーレムを見据えた。魔力を注ぎ込むと、視界が一瞬歪み、ゴーレムの全身に淡い光が浮かび上がる。そして、赤く輝く一点が頭部に表示された。
「弱点は……頭の宝石か!」
ゴーレムの頭部には、赤く輝く宝石が嵌め込まれていた。視界に浮かぶホロウィンドウが、その宝石を破壊することでゴーレムを倒せると示している。
(よし、そこを狙えば――)
俺が決意を固めた瞬間、ゴーレムが大きく両腕を振り上げた。
「ドンッ!」
ゴーレムの両腕が地面に叩きつけられる。その瞬間、部屋全体が激しく揺れ、瓦礫が飛び散る。床が波打つような衝撃が全身を襲い、俺はその場に膝をついてしまった。
「うわっ……!」
アースクエイク――ゴーレムの大技だ。ホロウィンドウには「スタン:5秒」のデバフが表示され、俺の動きが一時的に封じられている。
「くそ……動けない……!」
足が震え、思うように体が動かない。その隙を見逃さず、ゴーレムがゆっくりと拳を振り上げた。
「まずい……!」
ゴーレムの拳が振り下ろされ、俺の体を直撃する。
「ぐあっ!」
体が宙を舞い、そのまま壁に叩きつけられた。全身に鈍い痛みが広がり、息が詰まる。視界がぼやけ、頭が割れそうに痛む。
「くそ……痛い……!」
全身を覆う苦痛に、心が折れそうになる。思わず顔を歪め、立ち上がる気力を失いかけた。
(これ以上……無理だ……)
ゴーレムの赤い目が一層鋭さを増し、ゆっくりとこちらに向かって歩みを進めてくる。その一歩一歩が地面を揺らし、ズシン、ズシンという音が部屋全体に響き渡る。
「……!」
視界の端に映る巨大な影が徐々に近づいてくる。まるで死刑台に送られる囚人のような気分だ。動けない体を叱咤しようとするが、思うように力が入らない。
(ここで……終わるのか?)
ゴーレムの拳が再び振り上げられる。その光景を見つめながら、俺の頭の中に記憶が蘇った。
昼休み、朱音が笑顔で俺の隣に座ってきた。
「天城くん、あのさ。模擬戦の時、すっごくかっこよかったよ!」
「え……」
「ほら、あの時の盾の使い方! 私、思わず見入っちゃった!」
朱音の目はキラキラと輝いていた。その言葉に戸惑いながらも、俺の胸には少しだけ誇らしさが広がったのを覚えている。
「だからさ、これからも応援してるから! 頑張ってね!」
さらに浮かんだのは、母と姉が笑顔で手を振っていた光景だった。
「蓮、頑張って!」
小学校の頃、テストで思うような結果が出せずに落ち込んでいた俺に、母と姉は笑顔で励ましてくれた。
「大丈夫、次があるよ! 蓮ならできる!」
その言葉が、幼い俺にとってどれだけ力になったか分からない。その時の温かさが、今も胸に残っている。
(俺は……ここで終わるわけにはいかない)
頭の中に浮かんだ朱音の笑顔と、家族の励まし。それらが重なり合い、俺の中に眠っていた力を呼び覚ました。
「諦めてちゃダメだ!」
全身の痛みを無視し、俺は心の中で強く自分に言い聞かせた。
(ゴミスキル《過去視》だって、あんなすごい力を発揮できたんだ。ゴミランクの俺だって、諦めなければきっと……!)
頭の中で言葉を繰り返しながら、震える足に力を込め、何とか体を持ち上げる。
「さあ、こい!!」
意思を強く持ち、右手に蒼炎の古杖、左手に天狼の槍を構え直した。迫り来るゴーレムの巨体に向けて、再び立ち上がる。




