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第二百二十六話 覚醒者同士の激突


俺は小さく呟いた。


玲司との対話は絶対に必要だが、こんな地獄絵図のような闘技の真っ只中に割り込むのは得策じゃない。


何より今の状態の玲司は、自分の世界に没頭しているように見える。


一刻も早く、人類の危機を調査しなければならない。


それは俺自身に課せられた使命だ。


(決着をつけるなら、きちんと場を整えてから。どれだけ俺が必死になっても、いまの玲司の中に入り込む余地はなさそうだ)


俺はバルドのほうを振り返る。


「バルドさん」


「なんだ?」


その声には、俺への気遣いと同時に、玲司を見つめる複雑な感情が混ざっているように聞こえた。


「もうここまでで構いません」


「……いいのか?」


俺は深く息をつく。


心臓がまだドクドクと高鳴っているが、今はこれ以上踏み込むべきではないと判断した。


「玲司に、俺からの伝言を伝えてもらえますか?」


「もちろんかまわないが……」


バルドが鋭い目でこちらを見つめる。


「明日の昼12時。俺はもう一度ここに戻ってくる。そこで改めて、正式に決闘を申し込む」


思い切った言葉に、俺自身の胸も高鳴る。玲司が俺の呼びかけにどう応じるかはわからないが、これだけ多くの対戦者を相手にしているなら、今さら一人増えたところで拒むはずはない……はずだ。


バルドはしばらく黙り込んだが、やがて口角を上げ、静かに頷いた。


「……わかった」


俺は力強く続ける。


「お互いの譲れない想いの決着を、そこでつける。あいつも、それを望んでると思うから」


俺の声が薄暗い闘技場に静かに響く。


倒れたストレンジャーたちの呻きや、次なる挑戦者の足音が遠くに聞こえる中、玲司の鋭い視線だけがこちらを向いているのを感じた。


(気づいてるな、玲司。きっと俺の存在に……)


言葉にはしないが、その凄絶な瞳に宿る光が俺の背中を刺すように熱い。


「じゃあ、俺は帰ります」


そう言い残し、踵を返す。


ここに留まれば、玲司との衝突は避けられない。


それならば、あえて正面から挑む機会を作るほうがいいという判断だ。


玲司の視線を背中に感じながら、俺は足を進める。


血の匂いと鉄の味、そして闘気に満ちた空気の渦を抜け、闇を脱しようとするかのように。


※ ※  ※


翌日——。


俺は再びノクターン・グリムの本部へ向かっていた。


昨日、バルドへ伝えた約束を果たすために。


けれど、そのビルへたどり着く前に、まさかの人物と遭遇することになる。


「昨日、来ていたみたいだね」


静かに響く声に思わず足を止めると、そこには銀色の髪を風に靡かせる神楽坂玲司が立っていた。


微かな笑みを帯びた横顔が、遠い昔の記憶を呼び起こす。


「……ああ」


俺はわずかに身構えながら、玲司を見据える。


「それに、お前の師匠にも会ったよ」


「!!」


玲司の目が一瞬だけ鋭く細まった。


師匠という言葉に内心何を思っているのか、やはりその瞳には読み切れない闇が宿っている。


「それで……どうするつもりだ。同情するつもりか?」


玲司が静かに問いかける。


けれど、その声には微塵も哀れみを受ける気配など感じられない。


「いいや。そのお前の考え方を、俺は否定する」


自分でも驚くほどはっきりとした口調で言い切った。


玲司の眉がわずかに上がり、興味深そうに俺を見返す。


「でも、そのストレンジャーとしての腕を磨く行為は、否定しない。同じスぺシリア・チルドレンとして、剣を交えて、お前を改心させる!!」


宣言すると、玲司の唇はわずかに歪んで嘲るような笑みを浮かべた。


「言うじゃないか……いいだろう。決闘だ!!」


まるで、血と鉄が重なり合う音さえ聞こえてきそうな、鋭く張り詰めた空気が流れる。


昨日と変わらぬ薄暗い闘技場。


だが今日はいつも以上に張り詰めた緊張感が漂っていた。


まるで、これから起こる闘いの重大さを全員が悟っているかのようだ。


観客席にはノクターン・グリムのストレンジャーたちが並び、息を潜めるようにしてこちらの様子を見守っている。


バルドの姿もどこかで視線を送っているはずだ。


闘技場の天井は高く、黒々とした鉄柵が周囲を囲んでいる。


壁には無数の傷跡が刻まれ、乾いた血の痕が痛々しく残る。


昨日と同じ景色だが、そこに集まる空気は明らかに違う。


その中央で、俺と玲司が向かい合う。


「こんな世界、壊れてしまえばいいんだ」


玲司の冷たい声が闘技場に木霊する。


かすかな反響が耳に不気味に届き、背筋を凍りつかせる。


「お前には、ギルド内で慕ってくれるストレンジャーがいるはずだろう! なぜそんな考えを!!」


頭の奥が熱くなる。


どれだけ戦っても、彼を突き動かす闇の理由がわからない。


鼻で笑う玲司は、あえて冷徹な表情を崩さないまま、剣を振り上げる。


銀色の髪が血の匂いを孕んだ空気の中で揺れた。


「うるさい!! お前は邪魔だ! 僕の野望の邪魔なんだ!」


「野望……?」


俺は思わず息を呑む。


その言葉の裏にある闇と狂気が、まるで闘技場全体を覆いつくそうとするかのように渦巻いている。


「そうさ。僕はいずれ来る悪神と対話をし、僕が幸せになれる世界をつくる。そこに、賛同するストレンジャーを連れて行くんだ」


悪神と対話する——。その衝撃的な言葉に観客席から微かなざわめきが起きる。


「……お前は間違っている。悪神がそんなことを聞いてくれるわけないだろう!」


全身の血が逆流するような怒りが込み上げる。


いったい玲司はどこまで思い詰めているのか。


「黙れ!!」


玲司の瞳が危険な光を帯びる。


その瞳の奥に、かつての冷酷さが浮かび上がったように見える。


「スぺシリアがそんなことを望んでいたはずがない!!」


俺が叫ぶと、玲司の眉が僅かに動く。


スぺシリアという名——それが、彼の深層を揺らがせるきっかけなのかもしれない。


しかし、玲司はその動揺を振り払うかのように剣を構え直す。


「——いざ、勝負だ!!」


次の瞬間、二人の剣が閃き、鋭い衝突音が闘技場を震わせた。


観客たちが思わず身を乗り出し、息を呑む気配が伝わってくる。


視界の端で、火花が散る。心臓が強烈な鼓動を刻み、全身にアドレナリンが駆け巡る。


(玲司……お前を止める!)


この決闘こそが、すべての始まり——あるいは終わりを告げる戦いなのかもしれない。




※少し執筆お休みします。申し訳ございません。

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