第二百二十一話 ランク回復
俺の猛撃に対しても、バルドの猛攻は止まらなかった。
闘技場の空気が熱と雷鳴のような震動に満ち、耳鳴りが止まらない。
巨大な剣を振るうたびに、石畳が砕けそうなほどの衝撃が走る。
さらに、その合間を縫うように次々と魔法を連発してくるのだから質が悪い。
「……なんてパワーだ」
思わず苦い声が漏れた。
【S級魔法:獄炎魔陣】
効果:周囲に炎の陣を展開し、敵の行動を封じる。
バルドが地面を踏みしめると同時に、闘技場の床に円環状の魔法陣が浮かび上がる。
赤黒い炎がすさまじい熱を帯びながら立ち昇り、俺の逃げ道を塞ぐ。
「くっ……!」
炎の壁をかいくぐるように跳び、辛うじて直撃を回避するが、熱波だけでも肌が焦げそうだ。
(あんな巨体で剣も魔法も器用に操るなんて……)
汗が背中を流れ落ちる。
観客席からはどよめき混じりの声がこだましているが、集中しないと奴の次の攻撃に確実に叩き潰される。
しかし、バルドはさらに畳み掛けるように、新たなスキルを放ってきた。
【S級スキル:轟雷衝波】
効果:強力な雷撃を敵に放ち、広範囲を麻痺させる。
稲妻のような閃光が一瞬で視界を奪い、雷鳴の衝撃が地面から身体へとビリビリ伝わる。
「——!!」
完全には避けきれず、足に電流の痺れが走った途端、体が思うように動かなくなる。
まるで鎖で縛られたような感覚に、焦りが募る。
(まずい……このままじゃ押し切られる!)
闘技場の観客席からは喚声が高まっているのがわかる。
ノクターン・グリムのストレンジャーたちは、まるで猛獣同士の争いを見るかのような熱狂を帯びた眼差しで俺たちを見下ろしているに違いない。
しかし!
「——今だ!!」
痺れた身体に鞭打ち、俺は強引にバルドの懐へ踏み込んだ。
この一瞬のチャンスを逃せば、もう逆転はない。
「喰らえ……!!」
断罪剣にスイッチ。
俺は剣先に力を込め、俺は秘技を発動する。
【S級スキル:光刃剥奪】
効果:対象のスキルを打ち消し、ランクを下げる。
剣先が白銀の閃光をまとい、バルド・カイゼルの身体を斬り裂くように走る。
瞬間、爆発したかのような光が闘技場を覆い、彼の筋肉質な躯を一瞬で飲み込んだ。
「むおおおお!! それは……なんだ!」
光の残滓が散り、見ればバルドの巨体がぐらりと沈んだように見えた。
【バルド・カイゼル:ランクダウン】
S級 → B級
「……!!」
周囲のストレンジャーたちがどよめく。
「ま、まじか……!?」
「バルド隊長のランクが……下がっただと!?」
「あの技、なんなんだ……!」
観客席から驚愕の声が次々と響く。
バルドに比肩する者などそうはいないのだろう、それが一瞬でランクを落とされたのだから当然だ。
(今なら……!)
俺は剣を握り直し、すかさず追撃に移る。
【アイテム:冥狼の双刃】
種別:武器(双剣)
ランク:S
効果:斬撃ごとに呪いの波動を発生させ、敵の防御力を徐々に低下させる。
「うおおおおお!!」
渾身の咆哮とともに、双剣を振りかざす。
呪いの波動が剣閃に乗り、バルドへと襲いかかる。
ザシュッ!! ズバァッ!!
鋭い切り込み音が連続し、バルドの巨体がごろりと吹き飛ぶ。
「ぐぬぅ……!!」
そのまま壁に叩きつけられ、岩壁にめり込むように崩れ落ちた。
「どうだ!?」
観客席で息を呑んでいたストレンジャーたちが一斉に叫ぶ。
「す、すげぇ……!」
「まさかバルド隊長をここまで……!?」
「あのストレンジャー……本物だ!!」
称賛と興奮が入り混じった声が、俺の鼓膜を震わせる。
息を整えながら、俺は剣を構えたままバルドの姿を見据えた。
しかし——。
「いいね。その攻撃、悪くない!!」
低い唸り声が闘技場に響き、ぞわりと背筋が粟立つ。
「な……!?」
見ると、壁際に倒れ込んでいたはずのバルドが、信じられないほどゆっくりと身体を起こしていた。
「気に入ったぜ、天城蓮!!」
拳を握りしめたバルドの体が、さらに膨張していくように見える。
まるで肉体そのものが限界を超えてブーストしているかのようだ。
「はあああああ!!」
その雄たけびと同時に、バルドの全身から凄まじいオーラが溢れだす。
「な……!? 何が起こってる……!!?」
思わず一歩後ずさってしまう。
すると、俺の視界にはあり得ないステータス変動が映し出された。
【バルド・カイゼル:ランク回復】
B級 → S級
「バカな……!!」
バルドは豪快に笑い声をあげると、剣を軽々と振り回し、立ち上がってみせた。
その姿は先ほどよりもどこか巨大にすら感じる。
「ハハハハハ!!」
剣を振り上げたその腕には、筋肉の繊維が鎖のように膨れ上がり、周囲の空気を震わせている。さっき与えたはずのダメージさえ、どこかへ吹き飛ばしてしまったかのようだ。
「さあ、続きをやろうか!」
その言葉とともにバルドの瞳がぎらりと光り、猛獣が今まさに獲物を狩ろうとしているような殺気が俺に襲いかかる。
「くっ……!」
俺は思わず冷や汗を流しながら、剣を握りしめる。
(このストレンジャー……化け物かよ……!!)
わずかに震える手を押さえ込み、なんとか呼吸を整える。
観客席から上がる歓声と悲鳴が混ざり合い、闘技場の空気をますます熱狂へと煽り立てる。
バルドがゆらりと剣を構え直し、空気を切り裂くような唸りをあげた。
俺も、それに呼応するように剣を握り直す。




