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第二百十四話 老ストレンジャーとの戦い


氷の魔力を帯びた双剣で、斬撃のたびに相手の動きを鈍らせる効果を持つ強力な武器だ。


ザンッ!!


彼が一閃を放つと、鋭い冷気の刃がこちらの肩をかすめた。


瞬時に氷の力が肌を侵食し、まるで身体の奥から体温を奪われていくような感覚に襲われる。


「ぐっ……!」


思わず声を上げ、数歩後退する。


しかし、男は容赦などせず追撃の体勢に移る。


息を呑むほどの素早さだ。


「ふん、まだいけるな」


低い声が響いた瞬間、さらに別のアイテムを手に取ったようだった。


「ならば、これも試してみようか」


男は今度こそ優雅な笑みを浮かべながら、連撃可能な【アイテム:ドラゴンスレイヤー・エクレール・アルファ】を取り出す。


バチバチバチッ!


雷光が剣先に集まり、一気に奔る。


目がチカチカするほどの閃光が走り、男はまるで自分の装備かのように馴染んだ動きで斬撃を繰り出してくる。


「また、俺の武器を……!」


驚愕の声を上げる間もなく、ズガァン!! と衝撃音が響き、雷撃が俺の防御を貫いた。


腕がしびれ、思わず剣を握りしめていた手が緩む。


「ぐあっ……!!」


一撃を耐えきれず、俺は床を滑るように吹き飛ばされる。


荒い瓦礫に身体を打ちつけ、視界が一瞬歪む。


(くそ……このままじゃ……!)


身体中が鉛のように重く、呼吸が荒れる。


今の“部分覚醒”だけでは、どうにも対処しきれない。


(もう一度……あの覚醒を引き出すしかない!)


俺は痛む身体を叱咤して立ち上がり、心の奥底へ手を伸ばす。


かつて中国の古代ダンジョンで使いこなした“あの力”を——もう一段階、解き放つために意識を集中する。


ゴォォォォォ……!


闇のオーラが右腕だけでなく、全身へと波及していく感覚がある。


筋肉が泡立ち、血液が熱く煮えたぎるような興奮が身体を支配する。


(これなら……!)


目の前がクリアになった気がしたその瞬間、俺は完全な覚醒に至った。


漆黒のオーラが渦を巻き、双剣からさえ黒い稲妻のような波動が迸る。


「さあ、これで勝負だ……!!」


攻撃に転じようと一歩踏み込んだところで、男はすっと剣を下ろした。


「……降参だ」


男の静かな声が、広間に染み渡る。


思わず手を止めた俺は困惑の表情を浮かべる。


「え……? どういうことだ」


目を見張る俺の前で、男は剣を仕舞いながら落ち着いた口調で告げる。


「その力……きちんと制御できているようだな。なら、認めよう」


「認める……? 何を……」


はぁ、はぁと荒い息を吐きつつ、俺はまだ剣を構えたまま男を睨む。


正体不明のまま先ほどまで俺を追い詰めた相手が、突然“試合終了”を宣言するなんてどういう真意だろう。


「お前は、ワシになにか聞きたいことがあるんだろう?」


男は不敵な笑みを浮かべたまま、俺を見下ろすような態度を崩さない。


まるで最初からこの結果になると知っていたかのようだ。


「……そ、それは……」


言葉に詰まる俺をよそに、男は踵を返して歩き出す。


「なら、ついてこい。ここで話すには少々場所が悪い」


「ちょ、待って! あなたはいったい……」


男は振り返ることなく、ゆっくりと闇の回廊へ消えていく。


身勝手すぎる態度に苛立ちを覚えつつ、俺は覚醒状態を解除し、剣を下ろした。


(この人……本当に何者だ……)


マジックバッグも取り返せていないが、男は完全に気に留めていない。


仕方なく俺は、痛む身体を支えながら彼の背中を追いかけた。


 ※  ※  ※


「ここだ」


老ストレンジャー――自称“ダンジョンの仙人”に導かれるまま、俺は歪んだ神殿の奥深くへと進んでいた。


先ほどまでの厳しい戦闘は終わり、彼にマジックバッグも無事返してもらえたものの、まだ警戒は解けない。


いったい何者なのか、まったく読めない人物だ。


そんな思考を抱いていると、不自然に整った空間が視界に広がった。


ダンジョンの中とは思えないほど生活感のある一角。家具や調理道具、さらにはテーブルまで揃っている。


(まるで家みたいだ……)


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