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第二百十二話 闇の力の部分覚醒

痛みに耐えながら立ち上がる。


「くそ……マジックバッグを奪われて、ポーションも装備もロクに使えないなんて」


ゴブリンキングとの戦いの最中、アイテムはほとんどエメラルドゴブリンの手中にあった。


すでに“疾風のポーション”や“攻撃力アップのポーション”までもがゴブリンキングへ使用され、相手は強化されている。


このままじゃ押し負ける――そんな焦りが胸を突き上げるが、俺は必死に堪える。


ゴブリンキングが猛々しい咆哮とともに拳を振りかぶった。


床がきしみ、巨体が突進してくる。その速度は見た目に反して驚くほど速い。


「ぐっ……!」


必死に双剣で受け止めるが、衝撃に耐え切れず吹っ飛ばされる。


背中を壁に叩きつけられ、息が詰まった。


「はぁ……はぁ……」


深呼吸で痛む胸を誤魔化しながら、俺はそっと目を閉じた。


どうにかしてこの窮地を打開しなければならない。


(あの時の力……思い出すんだ)


頭をよぎるのは、中国の古代ダンジョンでの激闘や、もう一人の過去視使い・玲司との死闘。


あのとき、俺は一瞬だけ“覚醒者”の力を引き出し、圧倒的なパワーを振るったはず。


今こそ――もう一度、その力を引き出せるかもしれない。


「……今なら、できる」


俺は静かに目を開き、息を整える。


「さらに一歩先へ……!」


過去視を起点に、過去の自分が発揮した“あの戦闘力”を今に再現するイメージを重ねる。


同時に胸の奥に宿る闇のオーラが蠢き、俺の右腕へと集中していく気配を感じる。


【状態:部分覚醒】

効果:自我を保ったまま、覚醒者の力を一時的に行使可能。


「うおおお……!」


俺の体を包む闇の気配がぶわっと拡散する。


闇のオーラが右腕に凝縮し、見る見るうちに双剣は、一本の黒い剣のような形状に形を変えた。


指を開閉すると、強力な力が漲るのをはっきり感じる。


「ほう……」


遠くからエメラルドゴブリンが驚いたように目を細めていた。


椅子にふんぞり返っているが、その手には俺のマジックバッグ――まだ無造作に抱えている。


(よし……この闇の力、まさにあの時と同じ感触だ。今の俺なら暴走せずに扱えるはず)


ぎゅっと拳を握って開く。


腕の内側から凶暴なエネルギーが絶え間なく噴き出すようで、全身の細胞が歓喜する。


ゴブリンキングが怒りの咆哮を上げ、ずしん、ずしん、と床石を踏み割りながら俺に向かって突進してくる。


その筋骨隆々な巨体と、濁った目の圧迫感が嫌というほど伝わってきた。


ゴブリンキングが吼え、強化された巨拳を振り上げて再び突進してくる。


その速度と重量感は凄まじいが、今の俺は部分的とはいえ覚醒の力を扱える。


「遅い……!」


右腕に宿った闇の剣を一閃し、拳に斬りかかる。


ガキィンという衝撃音が鳴り響き、ゴブリンキングは吹き飛ぶことはないものの、大きく後退した。


「行ける……!」


その間隙を縫い、エメラルドゴブリンが杖を取り出して魔法弾を放ってきた。


咄嗟に感じた嫌な殺気に反応し、俺は少し横へ移動する。


「せいっ!」


闇の剣を振るい、飛んできた魔法弾を真っ向から両断。


火花が散り、魔力が空中に霧散していく。


「!」


椅子に座ったままのエメラルドゴブリンが驚いた声を上げる。


覚醒状態の力ならば魔法弾を断ち切ることも不可能ではない。


俺がゴブリンキングと再び交戦しようとしたその瞬間、エメラルドゴブリンはさらなる妨害を仕掛けてきた。


気合を込めると、俺の身体にまとわりつく闇のオーラが一段と濃くなった。


「おおおおおッ!」


咆哮とともに俺はゴブリンキングに再び突進する。


ガンガンガン!!


大質量の拳を闇の剣で迎撃し、あるいはギリギリでかわして剣圧を叩き込む。衝突の度に床石が砕け、瓦礫が飛び散る。


空気が重く振動し、耳鳴りのような音が響く中、俺は必死で相手の急所を狙い続けた。


そして――


「喰らえぇッ!」


最後に放った一閃が、ゴブリンキングの喉を正確に斬り裂いた。


「ぐああああああ!!!」


もんどり打つように巨体が崩れ落ち、ゴブリンキングは黒い塵となって消滅していく。


周囲に漂っていた血の匂いさえ、さっきまでが嘘だったように霧散した。


「やった……」


思わず肩で息をしながら呟く。


だが、その安堵の刹那を嘲笑うかのように――


ゴォォォォォォッ!!


「なっ……!!」


鋭い光の波動が俺の方へと襲いかかった。


「くっ……!」


即座に闇の剣を振り上げ、迫り来る光の帯を両断する。


切り払われた光が拡散し、周囲の空間を一瞬だけ白く染めた。


「今のは……まさか、光刃剥奪ラディアントディスペルの光……!?」


(……もしまともに当たっていたら、覚醒スキルをランクダウンさせられていたかもしれない)


恐る恐る光の軌跡が消えた先をうかがうと、そこには例のエメラルドゴブリンが断罪剣を構えたまま、ゆっくりとこちらに向かって歩み寄ってきている。


先ほどの衝撃で天井の岩盤から砂粒が降り注いでいるが、そいつは全く気にしていないようだ。


「さあ、舞台は整ったな」


ニヤリと笑うゴブリン。


その声には、余裕さえ感じられる。


「おまえ……!」


俺は闇の剣を握り直し、改めて構えを固めた。


(あいつはゴブリンとは思えないほどの知能と特殊能力……こいつ、ただ者じゃない。絶対に油断できないぞ……!)


剣を手のひらにぐっと押し当て、俺は自分に言い聞かせる。


ここからが本番だ。


まだ体力と闇の力は残っている。


ゴブリンキングを倒した勢いのまま、このエメラルドゴブリンも叩き潰してやる――そう、覚悟を決めた。


「……こっちも覚悟はできてる」


心臓がバクバクと高鳴る中、俺はゆっくりと呼吸を整え、闇のオーラをさらに高めていく。


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