第二十一話 A級アイテムの力
青ゴブリンたちが一斉に咆哮を上げながらこちらに迫ってくる。その恐ろしい叫び声と、不気味な牙の輝き、さらには武器を振り回す金属音が周囲を支配する。視界いっぱいに広がる圧倒的な物量が、心をじわじわと追い詰めてくる。
「やるしかない……!」
そう言葉に出してみるが、足が震える。目の前のD級モンスターたちの威圧感に、胸が押し潰されそうだった。
先頭の青ゴブリンが斧を振りかざし、咆哮と共に俺めがけて振り下ろしてくる。その一撃の風圧が頬を切るように感じられ、思わず目をつぶりそうになる。
(くそっ……!)
恐怖に支配されながらも、俺はとっさに後ろに跳ぼうと足に力を込める。だが、その動きは彼の予想をはるかに超えたものだった。
「うわっ!?」
俺の体が風のように後方へと滑り、青ゴブリンの振り下ろした斧は空を切った。気づけば、先ほどまで立っていた場所からかなり離れた位置に移動している。
斧を振り下ろした青ゴブリンが、不思議そうに首を傾げながらこちらを見ている。
「なんだ、今の……」
息を整えながら、俺は足元を見た。そして、改めて装備している靴のステータスを確認する。
【蒼狼の戦靴】
種別:防具/靴
ランク:A
説明:素早さとジャンプ力を飛躍的に向上させる魔法の靴。軽量で耐久性が高い。
【付与効果】移動速度+20%、ジャンプ力+30%
「すごい……」
思わず呟く。移動速度とジャンプ力を飛躍的に向上させるこの靴の性能が、恐怖に支配されていた自分を救った。
その瞬間、天啓のような閃きが頭を駆け抜けた。
(そうだ。この靴の俊敏性と、今持っている武器を組み合わせれば……)
だが、考え事をしている余裕などない。再び青ゴブリンたちが牙を剥き、武器を振り回しながらこちらに迫ってくる。
「来るなって!」
俺は再び靴の力を活かし、今度は冷静に動きながら青ゴブリンの攻撃をかわしていく。振り下ろされる武器を華麗に回避し、間合いを取るたびにゴブリンたちの苛立ちが増していく。
「お前ら、そんなに鈍臭いのか?」
余裕が出てきた俺は、口元に笑みを浮かべながら挑発を始めた。
「その斧、どこの骨董品だよ? こっちまで錆びそうだな!」
悪態をつくたびにゴブリンたちが咆哮を上げる。完全に頭に血が上ったモンスターたちは、今度こそ俺を仕留めるべく襲いかかってきた。
(よし……こっちに来い!)
俺はそう心の中で呟きながら、背を向けてダンジョン内を逃げ回る。
青ゴブリンたちは怒り狂ったように武器を振り回し、俺を追いかける。その集団の怒声と金属音がダンジョン内に響き渡る中、俺は靴の力を活かして先導するように走り続けた。
(こっちだ……もう少し)
瓦礫を避けながら、通路を駆け抜ける。俊敏な動きがもたらす滑らかさに驚きながらも、目的地に向けて集中する。
そして、ついにたどり着いたのは少し広めの空間――通路から続く唯一の道が入り口となっている、行き止まりの部屋だった。
(ここなら……)
俺は静かに息を整えながら振り返る。そこには、よだれを垂らしながら迫ってくる青ゴブリンたちの姿があった。
部屋の中心に立ち、迫り来るゴブリンたちを見据える。彼らの武器がかすかに光を反射し、狭い空間が圧迫感で満たされる。
「よし、作戦通りだ」
俺は呟くと、右手の杖を高く掲げた。その先端が赤く光を放ち、静かに力を蓄えている。
(ここからが本番だ……!)
青ゴブリンたちが牙を剥き、最後の突進を仕掛けてくる。その咆哮が狭い部屋に響き渡る中、俺は静かに構えを取った。




