第二百八話 閑話休題:ガールズトーク
※ ※ ※
天城蓮が、イザナのもとでダンジョン仙人の情報を聞いていたころ。
都内の落ち着いた雰囲気のカフェ。
店内は木目調のテーブルが並び、優しい照明が空間をほのかに彩っている。
まるで隠れ家のような静かな空間だが、あるテーブルだけは明るく弾んだ声に包まれていた。
「わあ、ここって思った以上におしゃれなカフェだね!」
椅子に腰掛けた朱音が目を輝かせながら店内を見回す。
その後ろでリナがウキウキした様子でメニューを開き、もう一人のリンが静かな笑みを浮かべている。
「えへへ、こういうとこ好きなんだよね。内装も可愛いし、しかもブッフェ形式でスイーツ食べ放題!」
リナが嬉しそうにケーキが並んだカウンターをちらりと見つめる。
「それは素敵です。リナさんのセンスですね」
リンが小さく頷くと、リナが早速立ち上がり、
「もう我慢できない! ちょっとケーキ取りに行ってくるね!」
と、一目散にスイーツコーナーへ向かった。
三人はテーブルを囲み、カフェラテや紅茶を注文しつつ自由にお菓子を取ってきては盛り上がる。
朱音が満面の笑みでフォークを握りしめ、口を開いた。
「で、今日、集まった理由は……?」
もうケーキを食べているリナが元気よく話す。
「うん! せっかくだから、この三人で天城くんについて、たっぷり話そうと思って!」
「えっ、天城くんについて?」
リンが椅子に座り直し、目をキラキラさせる。
「うん。最近、すごく忙しそうじゃん? ぜんぜんかまってくれないしー、だから、この3人で、情報共有したいなって!」
「確かに……私たち、それぞれ天城さんと違う形で関わってますし」
リンが納得するように頷く。
リナがスイーツプレートからケーキをほおばる。
「はふぅ……ケーキ最高! じゃ、誰から語る?」
「まずは朱音さんからいかがですか?」
リンが笑顔で提案すると、朱音は「あはは、私からね」と軽く照れながらミルフィーユをフォークで切る。
「天城くんってさ、昔はすごくおとなしくて目立たなかったんだ。教室でも後ろの方で本読んでるイメージだったし」
「あーそんな雰囲気、ちょっとあるかも」
リナが頷く。
朱音は懐かしそうな笑みを浮かべ、そっとフォークでケーキを口に運んだ後、話を続ける。
「でも、私がダンジョンでピンチになったとき、真っ先に助けに来てくれたの。……本当はまだFランクの下の方だったのに」
「えー、それってすごい! なんか天城くんらしいね」
リナが声を上げ、横でリンも感心したように微笑む。
「私も、そのとき初めて天城くんがあんなに行動力あるんだって知ったの。クラスメイトの城戸くんが無茶振りしてきた場面でも、ちゃんと自分の意見を通して、私を守ってくれた。……実はああ見えて、結構強引なところもあるっていうか」
「なるほど、意外と男らしいわけだ」
リナがにやりとしながらベリータルトをかじる。
朱音は少し頬を染めつつ、
「そうなの。頼りがいがある感じが最近はもっと増してきたし……正直、ドキドキしちゃうときもあるよ」
と言ってウフフと笑った。
「じゃあ次、リナさんはどうなの? 配信パートナーとして天城くんと組んでるでしょ?」
朱音が身を乗り出す。
リナはお皿に載せたフォンダンショコラを一口食べて、目をとろけさせながら語り始める。
「ふふ、天城くんってね、ここにいるお二人は知ってると思うけど。謙虚なのに実力はホンモノなんだよ。一緒にギルドの入団試験を受けたり、魔薬草の事件を追って廃墟潜入したりしてるうちに、ものすごく成長してて……!」
「へー、それ危険な任務じゃない?」
朱音が驚きつつ問いかけると、リナはスプーンをくるくる回しながら軽く笑う。
「でも、天城くんがいてくれたから全然怖くなかったよ。むしろ、私の配信的には最高の盛り上がりになったし。“ゴミスキル”なんて言われてたけど、実際に過去視でめちゃめちゃ成果出してるもんね」
「確かにそれは……ちょっとズルいレベルだよね。私もアーカイブ配信見たけど、回避とかすごかった!」
朱音が同意を示すと、リンも小さく頷いている。
「さて、最後はリンさんだね。どう?」
リナが笑顔でうながすと、リンは一瞬照れた様子を見せ、それから小さく咳をして話し始めた。
「私の場合は、一緒に任務に行ったんですけど、最初は大丈夫かな? って思ってたんですが、彼がみんながピンチになったボス戦で、合成の竈を使って“ドラゴンスレイヤー”を生み出したとき、衝撃を受けました。あのとき、私も一緒に戦ったんですけど、見事にボスを討伐して……」
「ドラゴンスレイヤー!? そんなのも作ってたの!?」
朱音が驚いてフォークを落としそうになる。
「はい。そのおかげで、全滅を免れました」
「やっぱ、そういうのりできっと世界の古代ダンジョンでも活躍したんだろうね! 天城くんらしい!」
三人ともが、首を縦に振る。
※ ※ ※
「ところでさ、朱音さんって、ロングヘアがすごく綺麗だよね。毛先までサラサラで羨ましい!」
リナが目を輝かせると、朱音は「あ、ありがと!」と照れて笑う。
「リナさんこそスタイル抜群だよ。ウエスト細くて足も長いし……正直女の私が見てもドキッとしちゃう」
「えへへ……サンキュー。でも、リンちゃんも負けてないよ。背も高くて、モデルさんみたいにシュッとしてるし! あと胸だって……」
「わ、ちょっとリナさん!」
リンが慌てて制止するが、顔はかなり赤くなっている。
朱音がクスクス笑いながら乗っかる。
「リンさんは、思いのほか“いい感じ”に発育してますよね……」
「わ、私のことはいいんです! それより、リナさんのコスプレも素敵でした。メイド服姿、配信とかで見たいです」
「おおお、そっちに話題来る!? じゃあ、こんどみんなで、三人で着ようよ!」
「「えええ!?」」」
朱音がフォークを持ったままあせり、リンは恥ずかしそうに口元を隠すが、ほんのり嬉しそうな表情が見え隠れしていた。
※ ※ ※
「それにしても……リンちゃん。天城くんを自宅に泊めたって、マジ?」
「は、はい。それに、お風呂にも入ってもらいました……」
ピキっと、朱音とリナが硬直する。
「わ、私ですら、一緒に試着室に入るくらいしかできてないのに……!!」
「リ、リナさん、それどういうシチュエーション!? 詳しく!!」
三人がワイワイ盛り上がり、ティラミスやミルフィーユ、ベリータルトにアイスまでテーブルに並ぶ。カフェ店員も思わず微笑むほどの“女子会トーク”が続く。
「じゃあ、そろそろデザートも食べ尽くしたし……最後にもう一回ケーキ取りに行こうよ!」
リナが立ち上がり、朱音とリンも「いいね!」と賛成する。
三人は笑いながらケーキコーナーへ向かい、“天城蓮話”の続きをする。
恋バナと冒険話がごちゃ混ぜになり、店内にはキャピキャピした声が絶えない。
「天城くんって、やっぱり罪な男だねー!」
「ほんとに……みんなでまた、こんなお話していきたいです」
「ふふ、賛成です。それもまた楽しいかもしれませんね」
甘いスイーツと甘いトークが混ざり合い、三人の笑顔はさらに華やかに弾ける。
こうして都内の落ち着いたカフェは、しばしの間、“天城蓮”をめぐる熱いガールズトークで彩られたのだった。




