第二百二話 覚醒者同士の激突
俺が歯を食いしばりながら、逆手に剣を構える。
(ならば……今までの俺じゃない戦い方を見せるしかない!)
胸の奥で決意が燃え上がる。
このまま彼の“過去視”に合わせた戦いをしていれば、負けは確定だろう。
なら、俺自身が未知のスタイルを即興で編み出し、奴が経験したことのない斬撃ルートを繰り出す――
「ん……なんだ……?」
玲司の目が一瞬だけ揺らいだ。
それを見逃さず、俺は急加速で間合いを詰め、トリッキーなステップで死角を狙う。
「うおおおおおお!!」
瞬間的に剣を使った打ち込みや、フェイントを混ぜながらクロスに斬撃を叩き込む。
普段とはまるで違う身体の使い方。
今までのデータにないルートを突くことで、彼の過去視による“読み”を狂わせていく。
「くっ……!」
玲司が明らかに防戦に回る。
それでも完全に対応されてはいないが、少なくともいつもの余裕は薄れているように見えた。
(よし……効いている!)
不意に俺は剣を切り替え、【ドラゴンスレイヤー:エクレール・アルファ】を取り出す。
「はっ!!」
勢いよく斬り込むと、周囲に紫電が奔り、空気がビリビリと震える。
さすがの玲司もたじろいだか――
「どうした!!」
俺の咆哮とともに、雷鳴のような衝撃波が玲司を直撃しそうになる。
しかし――
「それは過去視で見たぞ!!」
玲司が鋭く叫び、双剣を交差させて防御態勢を取り、雷撃をかろうじて打ち消した。
読まれたか……いや、それでもチャンスはある!
(そう……ここまでは奴の“過去視”の範囲内。でも、その先にまだ手がある!)
「なら……これでどうだ!!」
俺は振り下ろした雷剣を一瞬高く放り投げる。
玲司が「なに!?」と一瞬だけ驚いた表情を見せる。
つい先刻まで握っていた斬撃武器を放り投げるなど、予想外だろう。
しかし、今こそ未知の動きを取る好機――
「くらえ……!」
その隙に、俺はマジックバッグから新たな武器を同時に2本取り出す。
【A級武器:氷刃の双剣】
氷の力を纏った双剣。斬撃と同時に冷気を放ち、対象を凍結させる。
両手にそれぞれ握り、氷のオーラを放出させる。
「たしかに今まで見せたことのない戦法だ! だが……!」
玲司がすぐに反応して、【スキル:幻影回帰】を発動する。
多数の幻影が出現し、俺の双剣をブロックしようとする。
冷気が幻影に当たるが、それらは虚像であって簡単にはダメージを与えられない。
しかし、俺の狙いはそこではない。
幻影で氷刃の双剣を受け止められるが……
真の一撃は、俺が断罪剣を手元に出したときに決まる!!
「まさか……三刀流……だと……!?」
同時にもう一本の武器を扱ってくるとは想定外だったに違いない。
俺は一瞬の隙を突き、最終手段とも言うべき剣を振りかざす。
光が剣先に凝縮され、ランク強制ダウンという凶悪な効果を放つ。
玲司の双剣が氷刃をいなし、ドラゴンスレイヤーの雷を防ぎきったその瞬間、俺の“断罪剣”が彼の脇腹を捉えた。
「ぐああああっ!!」
一瞬、青白い光が炸裂し、玲司の身体が揺れる。
そしてその場でスキル効果が顕在化する。――
【ランクが、Bにランクダウンしました】
ランクダウンの文字が脳裏に表示されるかのように、一気に玲司のステータスが落ち込んだのを肌で感じる。
あれだけの猛攻を繰り出した彼が、さすがにダメージを受けて苦しげに膝をつきかける。
「おのれ……天城蓮っ……!」
憎しみを滲ませながら睨みつけてくる玲司。
血が口元を濡らし、まるで獣のような唸り声が聞こえるが、明らかに先ほどの桁外れな力は削がれている。
(思ったより撃たれ弱いのか……いや、ランクダウンが効いているんだ)
今までS級のステータスを保持していた彼が、一撃でB級へ落とされたのだから、その落差は相当なものだ。
俺が思わず息を整えながら、まだ警戒を解かずに見据えると、玲司は悔しそうに唇を噛みしめる。
ここまで彼に苦しめられたが、自分のアイデアとトリッキーな三刀流戦術が通じたのは大きい。
リンが後方で、「天城さん……すごい……!」と息を呑んでいるのが分かる。
「くそ……ランクが下がったところで……まだ終わりじゃない。僕をなめるなよ……!」
玲司が立ち上がり、なおも殺気を放つが、呼吸は乱れ、明らかに苦しそうだ。
「天城蓮んんんん!!」
玲司が全力で突撃してくる。




