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第二百話 スぺシリア・チルドレン

1万年前にスぺシリアが予言した――悪神の再来に備え、世界各地で現れる“スぺシリア・チルドレン”。


俺もその一人だが、彼も同じく覚醒の資質を持ち、しかも俺より先に力を極めつつあるようだ。


「さあ、きみがどの程度か、確かめさせてもらおうか」


玲司の声音は穏やかだが、その背後に潜む気迫は凄まじい。


バリバリと空間がひび割れるような錯覚さえある。


廃ビルの裏手に吹く冷たい風が、俺の頬を撫でる。


日が傾き始め、オレンジ色の光が薄汚れた壁を染める中、銀髪の少年と対峙するこのシチュエーションは、まるで運命の一幕のようだ。


「来いよ、天城蓮。《過去視》を使ってみろ」


「……」


俺が唇を引き結ぶ。


(やるしかない!)


――そして、戦いは始まった。


玲司が片手を振るっただけで、周囲のコンクリートが粉砕され、空気に亀裂が走るような衝撃が起きる。


俺は咄嗟に剣を振って衝撃を逸らす。


地面が揺れる中、玲司が薄く笑みを浮かべながらさらに力を解放する気配がある。


「……ふっ、覚醒者同士、どちらが本物か試してあげるよ」


「くっ……!」


(本当に存在していた……俺と同じ、あるいはそれ以上に《過去視》を使いこなす奴が)


不意に背筋がぞわりとする。短時間で強者と分かるのは久しぶりの感覚。


その瞬間――


「!!」


強い危機感に襲われ、即座にステップで後退するが、すでに玲司の姿が目の前にない。


さらに背後に気配を感じて振り向くと、そこにはもう一人の玲司が立っていた。


【S級スキル:幻影回帰げんえいかいき

効果:相手に自身の過去の姿を見せ、実体と錯覚させるトリッキーな幻影魔法。


かつて中国S級ストレンジャーとの戦いで、俺がようやく会得した技。


それを玲司は、まるで造作もなく使いこなしている。


しかも、俺のものとは比較にならないほどの精度だ。


「これは……!」


思わず言葉を失う。


いつの間にか周囲に玲司の幻影が分裂していて、どれもが絶妙にリアルな質感を持っている。


視覚だけでなく、気配までも再現されていて、俺の目にはどれが本物か判別がつかない。


(こいつ……完全に俺の《過去視:極》を上回る応用をしている?)


くそ……この場の情報を見極めようと《過去視:極》を起動しかけるが、幻影の作りこみが半端なく、どこまでが本物の軌跡か判定が難しい。


中国での戦いでは、この技で視覚を欺き、連撃を叩き込んだが、玲司の幻影はさらに“実体化”にも近い精度を持っていると感じる。


「さあ、遊ぼう」


玲司が言葉を放つと、幻影たちがシンクロするように構えを取った。


俺は剣を構え、全身に力を巡らせる。


油断したら一瞬でやられる――そう肌が告げている。


「《過去視》を使いこなしていれば、たいていの相手に負けることはない。しかし、ここにもう一人の《過去視》使いがいるとしたら……どうなるかな」


玲司がマジックバッグを手に触れる。


何かを取り出す気配に、俺はさらに警戒を強める。


すると、両手に漆黒の刃を持つ双剣が出現する。


見た目だけでなく、放つオーラからただならぬ力を感じさせる武器だ。


【S級アイテム:神滅の双剣】

効果:高速斬撃を可能にし、攻撃速度を大幅に上昇させる。多数の魔力が付与されており、対人戦で圧倒的なアドバンテージを誇る。


「……っ……!」


俺の胸が強く打たれたような衝撃を受ける。


まるで、かつての俺の戦闘スタイルを観察して、さらに強化したような武器。


その動きは、ほとんど俺の剣技に似通ったオーラを感じるから不気味だ。


(まさか、同じ《過去視》で俺のバトルスタイルを分析し、それを再現している……?)


玲司とその幻影たちが地面を蹴ると、僅かな振動が廃ビルの壁に反射し、音もなく猛スピードでこちらへ接近する。


その蹴り上げる埃が連撃の先触れのようで、背筋が寒い。


「速い……!!」


すでに玲司の双剣が閃光のような軌跡を描き、俺へ襲いかかる。


まだ一撃目を認識しきれないうちに、連続攻撃が矢継ぎ早に振り下ろされる。


とても視認できる速度じゃない。


俺は反射的に防御に回るしかない。


盾を装備していればまだしも、今回はマジックバッグに盾をしまったままだった。


(なんなんだ、この攻撃……速度と精度が尋常じゃない!)


ワンアクションのうちに何度も鋭い斬撃が俺の剣を弾き、肩や腕にかすめ傷を作る。


痛みが走るが、致命傷は避けたい。


必死に足を踏ん張り、防御に徹しているが、相手はそれを嘲笑うかのように斬撃をさらに加速させる。


「く……っ!」


「どうした? さっきまでの勢いは?」


玲司が余裕の笑みを浮かべながら連撃を叩き込む。


まるでこちらの動きを先読みしているかのように、刀身が的確に射線をなぞってくる。


(確かに俺と同じ《過去視》なら、俺の行動原理を逆手にとることが可能……そのうえ、実戦経験が俺より豊富な可能性も高い)


玲司は一瞬、斬撃を緩めてこちらの表情を探る。


「君の《過去視》、まだ未熟みたいだね。視えているはずなのに、僕の攻撃を止められないんじゃ?」


「黙れ……」


短く言い返すが、内心は焦りが募る。


同じ過去視使いの上位互換という形で、俺が得た技や戦法を先回りして対処されている感覚がある。


(どうする……どうやって切り返す? こっちの“過去視:極”でなんとか動きを読むしか……)


しかし、周囲には玲司が生んだ幻影がまだ残存していて、混乱に拍車をかけている。


(もしこいつが、俺の動きを過去視で見切っているなら、定石通りの行動はすべて先手を打たれるかもしれない。逆に、こっちも相手の過去の軌跡を見れば……)


思い返すのは、中国S級ストレンジャーとの戦いで得た経験。“予測不能”な行動で幻影を破った方法もある。


ただ、玲司の実力はあのときの敵をはるかに上回る。


だが、手をこまねいていても仕方ない。


「……だったら、やってやる」


小声で呟き、意図的にフェイントを繰り出す。振りかぶる瞬間に、断罪剣の軌道を大きく変更して意表を突く。


すでに玲司の双剣が次の攻撃を仕掛けようと構えていたが、一瞬そのフェイントに反応が遅れたかのように見えた。


「ふふ。いいじゃないか、天城蓮。やっぱりきみは“選ばれし子”の一人だよ」


玲司の声には、楽しげな響きが混じる。まるで本気の戦闘を楽しんでいるかのようだ。


その背後では幻影がちらつき、双剣を交差させた構えからゆっくりと殺気を放っている。


俺は胸の動悸を抑え、覚悟を再度固める。


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