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第百九十九話 もう一人の覚醒者


ダンジョンから程近い商店街の一角に、古びた看板のジャンク商店があった。


そこはかつて俺がゴミスキルと言われた《過去視》を駆使して、使えそうなガラクタを探していた場所でもある。


昔は店主がバキバキに鍛え上げた筋肉を誇っていて、ネタにして笑った記憶がある。


「よぉ、天城。久しぶりじゃねえか」


扉を開けると、がっしりした店主がカウンターの奥から顔を出す。


相変わらず胸板が厚い。


俺は「お久しぶりです。何かいいジャンク品ありますか?」と聞いて、リンが後ろから店内を興味深そうに眺めている。


「まあ、そりゃいろいろあるが……そういえば以、“お前みたいにジャンク品を買っていったヤツ”がいたって言ったろ?」


「ええ……はい」


「そいつ、今来てるぞ」


「え!?」


店主が顎で示す先には、棚の陰から誰かが現れそうな気配が。


そして背後から静かな声がかかった。


「きみが天城蓮、か」


振り向くと、そこには銀色の髪を持つ少年が立っていた。


年齢はあまり変わらないように見えるが、その瞳は不思議な光を湛えている。


まるで何かを見透かすように、鋭さと冷静さが同居した眼差しだ。


リンも「えっ……」と驚いたように息を呑む。


その少年は微かに微笑みながら、こちらを見つめている。


(誰だ……? ただ者ではないぞ……)


胸の奥がざわつき、何か大きな変化が始まる予感がした。


銀髪の少年の言葉が続く。


「……初めまして。きみの噂は聞いているよ。ゴミスキルを逆手に、古代ダンジョンまで攻略した“伝説”だってね。光栄だよ、会えて」


彼の口調は丁寧だが、どこか不気味な優雅さを含んでいる。


ジャンクショップの薄暗い照明の中、そろそろと距離を詰めてくる銀髪の少年の姿は、何やら只事でないオーラを放っていた。


(……こいつはいったい……?)


俺は思わず剣の柄に手をかける衝動を抑えながら、警戒を深める。


リンも後ろで緊張した様子だ。


しかし少年は穏やかに微笑んで見せ、まるでこちらをねぎらうような仕草を取る。


「どうか恐れないで。きみに興味があるだけなんだ……“天城蓮”」


「どういうことだ……!?」


「ここで長話するのも申し訳ない。場所を変えよう」


※ ※ ※


薄暗い路地の片隅、廃ビルの裏手にある空き地。


ここはジャンク商店から少し離れた、ほとんど人目のつかない場所だ。


俺とリンは不意に現れた銀髪の少年に誘導され、この無人の空間まで来てしまった。


警戒を怠らないまま、周囲の様子を探る。コンクリートブロックが積み重なり、壁には苔が付着している。


いやに冷たい風が吹き抜け、嫌な胸騒ぎがする。


「改めて自己紹介しよう。僕の名前は……神楽坂 玲司」


少年は淡々と名乗った。声に抑揚はあまりなく、しかし落ち着いた響きが逆に危険な香りを漂わせる。


リンがそれを聞いた瞬間、ハッと息を呑む。


「か、神楽坂 玲司って……まさか……」


俺はリンの反応に目をやり、さらに警戒を強める。


リンは普段冷静な彼女だけに、その驚きようは尋常じゃない。


「知ってるんですか?」


「ええ……ギルド《ノクターン・グリム》の幹部です。しかも、間違いなくS級ストレンジャー……」


ノクターン・グリム――暁のアカツキ・ブレイドに並ぶほどの実力を持つギルドであり、現在最強格とも噂されている組織。


そこの幹部ということは、間違いなく只者ではない。


目の前の神楽坂 玲司は、柔らかい笑みを浮かべていながら、その背後に圧倒的な実力を秘めているはずだ。


「天城蓮。記憶のオーブを手に入れたということは……視たのだろう?」


玲司の静かな問いかけに、俺の胸がざわめく。


「何をだ?」とあえてしらばくれてみるが、彼はすぐに言い返す。


「ごまかす必要はないさ。大魔導士の記憶……スぺシリアのことだよ」


(やはりこいつ……そこまで知っているのか!)


玲司は薄い笑みを浮かべ、ゆっくりと指先を上げる。


「きみも覚醒者……スぺシリア・チルドレンの一人だったというわけだね」


「スぺシリア・チルドレン……?」


聞き慣れない単語が俺の耳に飛び込む。


だがその響きは、スぺシリアの遺志を継ぐ“子供たち”というニュアンスだろうか。


(俺の《過去視》がスぺシリア由来なのは確かだが、同じ境遇の奴がほかにもいる?)


「まさか……俺以外にも同じ力を持つ奴がいるってのか」


俺は驚きと疑いを込めてそう言うと、玲司は肩をすくめるようにして笑う。


「もちろんだよ。スぺシリアの遺志を継ぐ者は、ひとりじゃない。僕もそのひとり……いや、もしかしたら僕が一番先輩かもしれないね」


その言葉に嫌な汗が伝う。


彼が言う先輩――つまり、俺より長く《過去視》の力を使い、覚醒を進めている可能性が高い。


さらに、玲司が所属するノクターン・グリムはトップクラスのギルド……実力と情報力を兼ね備えているに違いない。


「ん……まさか、きみはそこまでの情報を受け継いでない? なるほど、まだまだニュービーってことか」


玲司の言葉には微妙な嘲笑が混ざり、俺の胸がざわつく。


俺が憤りを感じて口を開きかけると、リンが不安そうに囁く。


「天城さん、気をつけて……」


「大丈夫、俺だってこんな挑発には負けない」


心に誓いつつ、玲司を睨む。


すると彼は悠然とした態度を崩さぬまま、薄く笑みを浮かべた。


「やはりまだ青いね。……ならば先輩として、実践でいろいろ教えてあげるよ」


「なに……!」


玲司の周囲に突如として圧倒的なオーラが渦巻き始める。


ゴゴゴ……という地鳴りのような振動が廃ビルの壁を伝ってきて、塵が舞い上がる。


本能が危険を告げ、俺は咄嗟に剣を握り、リンが後方へステップするのを確認する。


「まさか……!」


リンが息を呑む。


玲司は腕を組むようにして胸の前で力を集中させる。


空気が震え、モヤのような黒いオーラが身体を包み込む。


彼の銀色の髪が揺れ、その瞳に深い闇と冷たい光が宿る。


(覚醒者……!)


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