第百九十八話 リンとの共闘
「……1万年前、悪神との戦い、そして《過去視》の起源……か」
スぺシリアの過去を記憶のオーブを通じて見てからというもの、あの光景が頭から離れない。
火の海と化した世界、封印の代償、そして1万年の時を超えた“闇の復活”への警告。
無意識に深く息を吐きながら、俺は街の雑踏を歩いていた。
いつもの東京の景色に、どこか違和感を感じるのは、あの凄惨な映像がまだ脳裏に焼き付いているせいかもしれない。
(今のうちに、できることを積み重ねておかないと……)
そう思いつつ、スマホを確認すると、画面が震えて新着メッセージを知らせる。
差出人はリン。
落ち着いた雰囲気で、クールかつ才色兼備のストレンジャーだが、実は俺と一緒にダンジョンへ行く約束をしていたのを思い出す。
『おかえりなさい、天城さん! お忙しいかもしれませんが、よかったら一緒にダンジョン探索しませんか?』
彼女らしく柔らかな言葉が続き、最後に可愛らしいスタンプが添えられている。
(そうだ、海外遠征から戻ったらダンジョンでアイテム探しを手伝うと約束していたっけ。ここ最近はバタバタして忘れてた……)
俺はすぐに返信を打つ。
『いいですよ。どこのダンジョンに行きます?』
すると、すかさずメッセージが返ってくる。
『B級ダンジョンで待ち合わせしましょう! 欲しいアイテムがあるんです』
(B級か……ちょうどいいリハビリにもなる。わかった、明日行こう)
※ ※ ※
ダンジョン入り口でリンを待っていると、少ししてから落ち着いた笑顔をたたえた彼女が姿を見せる。
薄いセーターとパンツ姿の軽装だが、魔術師としての装備を随所に配置しているのか、ところどころ魔力が微かに揺らめいて見える。
「お待たせしました、天城さん」
リンが小さく頭を下げる。
俺は「いえ、ちょうど今来たところです。行きましょうか」と返して、2人でダンジョンの入口をくぐる。
「実は、どうしても手に入れたいアイテムがあるんです」
「どんなアイテム?」
「《聖銀の指輪》というもので、魔力消費を抑えてくれる効果があるんです。長期戦を想定すると、どうしても魔力管理が難しくて……」
リンが軽く苦笑する。
彼女ほどの実力者でも、魔力を安定させるアイテムは大事らしい。
俺は「了解です」と頷き、周囲に気を張りつつ歩き始める。
B級とはいえ油断は禁物だが、今日の俺たちなら大きな問題はないだろう。
ダンジョン内部は湿気を帯びた通路が続き、ところどころに岩壁が剥き出しになっている。
暗がりの中、リンの杖の先が魔術の光を放ち、道を照らす。
しばらく奥へ進むと、前方に大きな気配が現れる。
「出たな……」
緊張感が高まる。
姿を現したのは、巨大なトロールの変種――岩の鎧をまとい、防御力を大幅に高めたモンスターだ。
【岩鎧トロール】
種別:敵モンスター
ランク:B
特徴:硬い岩の鎧をまとったトロールで、防御力が極めて高い。
スキル:岩壁防御:物理ダメージを大幅に軽減する。
スキル:豪腕衝撃:拳を振り下ろし、地面を砕く強烈な一撃。
「私が先制攻撃します」
リンがさっと杖を構え、呪文を詠唱する。
小さな光の玉がトロールの胸元へ飛び、爆裂音とともに岩の表面を削り取るが、相手の防御力はなかなかのものだ。
すぐにトロールが「ガアアッ!」と拳を振り上げて豪腕衝撃を放つ。
地面が砕け、割れた岩の破片が飛び散るが、リンはしっかり回避。
俺も一歩下がって攻撃の隙を見極める。
「次は俺が行きます」
素早く剣を握り込み、前へ踏み出す。
「はあっ!」
一閃すると、剣先から放たれる光が岩鎧トロールの硬い装甲を一瞬で打ち砕き、中身の柔らかい胴体を断ち斬る。
トロールは驚愕の声を上げる間もなく、地に倒れ込んだ。
「す、すごい……」
リンが小さく感嘆の声を漏らす。
かつてB級のボス級モンスターでも苦戦したことがある俺だが、いまはこうしてあっさりと撃破できる。
自分でも“強くなった”と実感せずにはいられない。
その後も俺とリンは順調にダンジョンを進み、モンスターを倒しながら宝箱を開けていく。
B級ダンジョンとはいえ、多くの分岐路や罠があるが、リンの冷静な探索と俺の戦力が合わさり、特に大きな苦戦はない。
「あと少しで目標地点……地図によると、この先に宝箱があるはずなんです」
リンが地図アプリをチェックしながら指差す。
するとそこには小さな広間があり、古びた宝箱が鎮座していた。
魔物の気配は感じない。
慎重に近づき、罠を確認してから蓋を開けると――眩い銀色の指輪が光を放つ。
「これが……《聖銀の指輪》……!」
リンの声が喜びに震える。
そっと指輪を手に取り、魔力に反応する感触を確かめているようだ。
「よかったですね、リンさん。ちゃんと手に入って」
「はい……ありがとうございます、天城さん。あなたがいてくれたから、ここまで楽に来られました」
リンは嬉しそうに笑い、指輪を装備してみる。
淡い光が指先から広がり、確かに魔力を安定させる効果があるらしい。
「目標達成したし、そろそろ戻ろうか」
俺がそう提案すると、リンは「そうですね。無理をして先へ進む必要もありませんし」と同意する。
二人でダンジョン入口へと引き返す道中、雑談を交わす。
リンは相変わらず穏やかな口調で、時にクスリと笑いながら俺の話を聞いてくれる。
何というか、話しやすい相手だ。
「天城さん、帰りにどこか寄るところはありますか?」
出口を出て、地上の光を浴びながらリンが尋ねる。
俺は少し考えてから、「ジャンクショップに寄りたいんだけど」と答えた。
懐かしいジャンク品を覗いてみたいし、何か発見があるかもしれない。
「了解です。私も付き合いますね」




