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第百九十五話 1万年前からやってきた《過去視》

溢れ出す魔力で地面に巨大な紋章が刻まれ、そこから稲妻のような光が悪神を絡め取るように射しこむ。


悪神が黒い霧で必死に抵抗し、衝撃波を生み出して周囲を一掃しようとするが、スぺシリアは杖を握りしめ、一歩も退かない。


きつく歯を食いしばり、命を削るように魔力を注ぎ込む。


「消えろ……!!」


その叫びとともに、稲妻の光が最高潮に達し、まばゆい閃光が世界を埋め尽くす。


――光が弾けるように爆発し、同時に、悪神の姿が徐々に霧散していく。


凄まじい魔力の余波が吹き荒れ、映像を通して見ている俺たちの意識すら揺さぶられるような圧迫感を感じた。


(すごい……これが最強の禁断魔法……!)


やがて閃光が収束し、悪神の姿はなくなっていた。


スぺシリアは封印に成功したのだ――ただし、それは“1万年”という期限付きの封印。


「……これで……あと1万年……」


スぺシリアが膝をつき、杖を支えにしてかろうじて立とうとするが、その顔は青白く、呼吸も弱々しい。


全魔力と命を賭けて悪神を封じた結果、残された力はほとんどない。


そこへ追い打ちをかけるように瓦礫が崩れ、地鳴りが響く。


世界はすでに瀕死の状態――しかしスぺシリアは微笑むように呟く。


「……私の役目は、ここまで……」


力尽き、倒れ落ちる魔導士。その瞳には悔しさと安堵が混在しているように見える。


だが、彼は最後の一瞬、まだ口を開いた。


「……1万年後、この封印が解けるときが来る。それまで……人類は……次の戦士を育てねばならない……1万年後の未来から、《私のいる過去》を視つめることのできる能力……」


(!! なんだって!!)


「《過去視》……これを……未来に……」


《過去視》――このスキルこそ、スぺシリアが最後に残した“希望”だった。


彼は自らの命の欠片をエネルギーとして、1万年後に現れる“選ばれし者”へこの力を託すために放ったのだ。


まるで、“汝にこの記憶を見せ、再び世界を救う術を思い出させてくれ”というメッセージのようだ。


「……この力を継ぐ者よ……頼む……」


次の瞬間、スぺシリアの身体は淡い光に包まれ、意識ごと世界から消え失せる。


周囲の火炎や瓦礫も次々に揺らぎ、視界が白く染まっていく――


「……っ!」


ハッと息をのんだ俺は、光の演出から解放されるようにして現実世界へ意識が戻る。


オーブの放つ輝きは消え、気づけばギルドの部屋にいる(またはこの映像を閲覧している場)――仲間たちの姿もぼんやりと視界に入る。


(これが……スぺシリアの記憶……1万年後に復活する悪神、そして彼が残した《過去視》……)


※ ※  ※


光の柱がふっと小さく収束していく。


「消えた……」


霧島が小声で呟き、室内は元の静寂を取り戻した。


「いったい、どういう意味だったんだ? あの映像は……」


「はるか昔に起こった、大きな争い、ということしかわからなかったわ」


「もうすこしヒントになることがあればよかったんだがなぁ……」


仲間たちが、映像を見終わって次々と口にする。


(え……!?)


「あの、大魔導士のことについては……?」


俺が話しかけると、大刀が怪訝な顔をして、


「いや、そんな映像は見なかったぞ。なあ、みんな」


白石も霧島もうなずく。


そんな……。


あのスぺシリアの映像は、俺だけに視えていた……?


俺だけが、過去視で……?


テーブル上には四つのオーブがまた元のように落ち着いた光を放つだけで、先ほどのような強い反応はない。


「これで、記憶のオーブは見せてもらったが……どういう意味なんだろうな」


大刀が腕を組んで唸る。白石は目を伏せながら「きっとあれが古代の戦乱……私たちのこれからの戦いも、同じかそれ以上に激しくなるのかもしれない」と不安を呟く。


イザナは静かに手を差し出し、オーブをひとつ握りしめる。


「これは、まだほんの入り口に過ぎない。オーブが伝えたがっているのは、あの映像を超える何か……。真の秘密を解き明かすには、さらなる解析が必要だ」


そう言って、イザナは俺たちを見回す。


その眼差しはいつも通り冷静だけど、どこか決意を帯びているように感じられる。


「政府の協力を得て、これらのオーブを本格的に解析する」


※ ※  ※


胸が苦しくなる。


もし、俺が持つゴミスキルと言われた《過去視》が、スぺシリアの遺志であり、1万年の時を超えて受け継がれた力だとすれば――俺には、この世界を再び滅亡の危機から守る責務があるのか。


ダンジョンが増えているという事実は、悪神の復活の前兆。


1万年続いた封印が崩れる日が近いという暗示にも思える。


「悪神……1万年の時を超え、再び……」


拳を握る。


脳裏には、スぺシリアの最後の言葉が何度もこだまする。


あの孤高の魔導士が身を粉にして守った世界を、今度は俺や仲間たちが守る番なのかもしれない。


動悸が速くなり、額に冷たい汗がにじむ。


だが同時に、彼の希望として生まれた《過去視》をどう活かすか――俺は、この力を正しく制御しなければならないという宿命を感じる。


世界を焼き尽くす悪神の復活まで、残された猶予はおそらくわずか。


けれどスぺシリアの願いを無駄にするわけにはいかない。


俺たちが古代ダンジョンを踏破して得た記憶のオーブ、その意義がはっきりと見え始めている。


そう、1万年後――すなわち今こそ、立ち上がるときが来たのだ。


(スぺシリア……あなたの意志は、俺が受け継ぐ)




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