第百九十三話 久しぶりのギルド
「……久しぶりで、やっぱり緊張するな」
久しぶりに訪れたビルの正面玄関。
その高層ビルは、東京の雑踏の中でも一際目立つ存在だ。
ここは暁の刃――俺が所属するギルドの本部。
この世界を守るために日々活動する精鋭たちが集う場所だ。
海外遠征で数々の死線を潜り抜け、四つの古代ダンジョンを制覇してきた俺だが、ようやく帰国してここに立つと、懐かしさと達成感、そして少しの緊張が入り混じっていた。
「天城くん、ようやく来ましたね!」
ロビーに入った瞬間、受付や待合スペースにいたストレンジャーたちが一斉に声を上げる。
「おかえりなさい!」「あの古代ダンジョン、四か所制覇したって本当なんだろ?」「政府からも正式に発表があったぞ!」
あまりに多くの人が駆け寄ってきて、身動きが取れなくなる。
彼らは皆、熱のこもった表情で俺を称えたり、戦いの話を聞きたがったりと大興奮だ。
(うわ、これは……俺が想像してた以上に騒ぎになってるぞ)
「落ち着けってば!」
助け舟を出してくれたのは霧島だった。
彼はいつもの冷静な声で周囲に呼びかけ、俺のもとへ進む道を作ってくれる。
「天城くんは大事な用があるんだ。邪魔してやるなよ」
「あっ、すまん、霧島さん。天城くんの活躍に興奮してて……」
申し訳なさそうに人々が散って行き、ようやく息がつけた。
俺は霧島に向かい、軽く頭を下げる。
「助かりました、ありがとうございます、霧島さん」
「はは、当然だろ。お前がここまで偉業を成し遂げれば、そりゃみんな興味津々さ」
霧島さんが肩をすくめ、エレベーターの方向を示す。
俺たちは人の波を抜け、エレベーターに乗り込む。
向かう先は最上階――イザナが待つ部屋だ。
エレベーターが到着し、開いた扉をくぐると、そこは高級感あふれる廊下が広がっていた。
クリスタル製の照明に静かなBGMが流れ、最奥の扉には金属プレートで“リーダールーム”と記されている。
「では、行こうか」
霧島がノックをして、返事が返ってくるのを確認すると、扉を開く。
そこには大きな窓から街を一望できる広い部屋。
中央に丸いテーブルがあり、既に大刀と白石が待っていた。
「おお、天城くん、待ってたぜ!」
大刀が満面の笑みで声を上げる。
以前と同じく豪快な雰囲気だが、最近は海外遠征でも共に戦った仲間。
そして白石も微笑みながら「おかえり、天城くん」と言ってくれる。
その瞳には安堵が滲んでいる。
「ようこそ、天城くん」
部屋の奥、窓際に立つのはイザナ。
黒いスーツに身を包んだギルドリーダーが、静かな微笑を浮かべていた。
大刀や白石、霧島と共に、イザナのほうへ歩み寄る。
「政府にも正式報告を済ませた。オーブを入手した古代ダンジョン四か所……どれも前人未到だった場所。君たちの功績は非常に大きい。まずは労をねぎらうよ」
「ありがとうございます、イザナさん」
言葉を交わしつつ、テーブルの中央を見やると、そこに四つのオーブが整然と並べられていた。
琥珀色、蒼白色、深緑色、そして紫の光を放つ球体――どれもが淡い輝きを放ち、今にも何かが宿っているかのようだ。
胸が高鳴る。
「では……さっそく、解析にうつるとしよう」
イザナさんが手をかざすと、それぞれのオーブが共鳴したように淡い光を発し、次第に光が増幅していく。
やがて光が繋がり合い、天井へ向かって一本の光の柱が伸びていった。
「おお……すごい……!」
大刀も思わず身を乗り出す。
霧島は静かに息を呑むだけだが、その眼差しは鋭い興味に満ちている。
光の柱はやがて部屋の中を覆うように広がり、まるで映像が空中に投影されるようなイメージが現れる。
「これは……何を映してるんだ?」
大刀が訝しげに呟くと、イザナが真剣な眼差しで映像を見つめる。
「記憶のオーブが抱えていた情報……ということだろう。世界の秘密、あるいは古代の記録が映し出されているはずだ」
オーブに宿る記憶。
それは“悪神”と呼ばれる存在に纏わる重大な手がかりかもしれない。
俺たちは息を凝らし、浮かび上がる映像を注視した。
霧島が小さく「まるで、オーブが語りかけてくる」と呟く。
たしかに映像の中から声のような響きが微かに感じられる。




