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第百九十一話 リナのドッキリイベント


  ※  ※  ※


一通りショッピングを楽しんだあと、リナが「ちょっと休憩しよう」と言って、ビルの上階にあるカフェに入った。


そこはおしゃれな雰囲気の店で、若い女性客が多い。


リナはメニューを見ながら「わあ、スイーツがかわいいね」と満足げだ。


「天城くん、何にする? この“紅茶パフェ”とか美味しそうじゃない?」


「そうだな……じゃあ、俺は抹茶パフェにしようかな……」


少し並んで注文し、窓際の席に座る。


都会的な景色を見下ろしながら、リナが「あのダンジョン配信の話さ……」と声を潜める。


「え?」


「天城くん、約束通り、今度ちゃんとコラボしてよ! 天城くんの活躍映像をガチ配信して、ファンを増やそうよ!」


「いや、でも俺、あんまり目立ちたくないからさ……」


戸惑いながら答えると、リナは笑って「わかってるよー……ま、そのうち考えてみて?」とウインクしてくる。


彼女らしい軽快さに、俺も苦笑いで返すしかない。


やがて運ばれてきたパフェを一口食べると、思わず「うまい……!」と感嘆する。リナも「この紅茶風味、めちゃいいね!」と頬を綻ばせている。


そんな和やかな空間で会話が弾む。


外へ出たとき、ギャラリーが店の近くで待ち伏せしていた。SNS拡散か何かでリナの在店情報が流れたのか、十数人ほどの人だかりができている。


「えっ……これ、リナのファンってやつ?!」


「うわー、やっぱり来ちゃったか……。さっきスカウトした人もSNS使うから……仕方ないね」


リナが小さくため息をつきつつも、ニコリと愛想良く対応しようとする。


が、俺のほうは素直に驚きすぎて声も出ない。


人々は「リナさんですよね? 配信いつも見てます!」と口々に叫び、記念写真を求めて殺到する。


大通りの警備員が「危ないですよ、みなさん!」と声を上げるが、興奮しているファンが多く、なかなか解散しない。


「リナ、撤退しよう!」


「う、うん、賛成!」


リナと俺は目配せすると、一気に走り出した。リナも普段の鍛錬で足が速いので、息を合わせて人混みをすり抜ける。


ビルの角を曲がり、裏通りに回り込んでようやく人目から逃れることができた。


「ふう……危なかったね」


リナが額の汗を拭いながら軽く息を整える。


「まさかこんな騒ぎになるなんて……」


ダンジョンでの死線に比べれば、こうした“日常的な混乱”のほうが神経をすり減らす。


「じゃあ、次は今日のメインイベントに行こう!」


とリナが元気よく合図した。


※ ※  ※


「ちょっと歩くなーと思ったら、まさかメイド喫茶に連れて来られるとは……」


新宿の繁華街。


雑多な人通りを抜けて、ネオン街を横目に細い路地へ進むと、そこには一軒のメイド喫茶があった。


レンガ調の外壁に小さな看板が立っており、「メイドさんがお出迎え♪」というポップな文字が目立っている。


いかにも“ここが噂のメイド喫茶ですよ”とでも言わんばかりだ。


リナに手を引かれて店の入り口で一息つくが、正直まだ心の準備ができていない。


俺としては、少し休憩する程度のつもりだったのだが……リナが「メイド喫茶行こうよ! 楽しいよ!」とテンション高めで提案してきたものだから、断る余地もなく連れてこられた。


「ふふっ、天城くん、そんなに緊張しなくても平気だよ」


笑顔でそう言われても、この“メイド喫茶”という空間に俺が馴染めるのか疑問だ。


「じゃ、行こうか。『おかえりなさいませ、ご主人様~♪』って言われるかもね!」


「……まじですか……」


苦笑しながら扉を開けると、カランカランというベルの音に続き、可愛らしいメイド服の女の子たちが「お帰りなさいませ~!」と笑顔で迎えてくれる。


確かに異世界感がすごい。


内装はまるでヨーロッパの古城をイメージしたような装飾で、幻想的な照明に満ちた店内にはマイルドなBGMが流れていた。


店の一角に腰を下ろし、メニューを受け取ってホッと一息。


メニューを見れば、ドリンク名に「萌え」「キュン」「うさ耳」「にゃんにゃん」といった単語が散りばめられていて、注文すら躊躇するレベルだ。


「……まあ、頑張って頼むか……」


俺がメニューに視線を落としていると、リナがスッと立ち上がる。


「ちょっと待っててね、天城くん。私、奥に用事あるから」


そう言い残すと、彼女は店の奥へスッと姿を消した。


(なんだ……トイレでも行くのかな?)


と考えつつも、周囲の客席を見渡す。


メイド喫茶らしく、コスプレしたメイドさんが何人かいて、笑顔で接客している。


客層は若い男性が多いが、中にはカップル客もちらほら――なるほど、こういうところに二人で来る人たちもいるのか。


(まさか俺が、こんな店に来るとは……)


しばし店内を眺め、ドリンクをどうしようかと悩んでいると、急に「じゃーん!」という明るい声が響いた。


「おかえりなさいませ♡ ご主人様♡」


「はあ!??」


思わず声を荒げる。

振り向けば、そこにいたのは――フリル付きのエプロンドレスを身にまとい、ツインテールをふわっと揺らすメイド姿のリナだった。


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