第百九十一話 リナのドッキリイベント
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一通りショッピングを楽しんだあと、リナが「ちょっと休憩しよう」と言って、ビルの上階にあるカフェに入った。
そこはおしゃれな雰囲気の店で、若い女性客が多い。
リナはメニューを見ながら「わあ、スイーツがかわいいね」と満足げだ。
「天城くん、何にする? この“紅茶パフェ”とか美味しそうじゃない?」
「そうだな……じゃあ、俺は抹茶パフェにしようかな……」
少し並んで注文し、窓際の席に座る。
都会的な景色を見下ろしながら、リナが「あのダンジョン配信の話さ……」と声を潜める。
「え?」
「天城くん、約束通り、今度ちゃんとコラボしてよ! 天城くんの活躍映像をガチ配信して、ファンを増やそうよ!」
「いや、でも俺、あんまり目立ちたくないからさ……」
戸惑いながら答えると、リナは笑って「わかってるよー……ま、そのうち考えてみて?」とウインクしてくる。
彼女らしい軽快さに、俺も苦笑いで返すしかない。
やがて運ばれてきたパフェを一口食べると、思わず「うまい……!」と感嘆する。リナも「この紅茶風味、めちゃいいね!」と頬を綻ばせている。
そんな和やかな空間で会話が弾む。
外へ出たとき、ギャラリーが店の近くで待ち伏せしていた。SNS拡散か何かでリナの在店情報が流れたのか、十数人ほどの人だかりができている。
「えっ……これ、リナのファンってやつ?!」
「うわー、やっぱり来ちゃったか……。さっきスカウトした人もSNS使うから……仕方ないね」
リナが小さくため息をつきつつも、ニコリと愛想良く対応しようとする。
が、俺のほうは素直に驚きすぎて声も出ない。
人々は「リナさんですよね? 配信いつも見てます!」と口々に叫び、記念写真を求めて殺到する。
大通りの警備員が「危ないですよ、みなさん!」と声を上げるが、興奮しているファンが多く、なかなか解散しない。
「リナ、撤退しよう!」
「う、うん、賛成!」
リナと俺は目配せすると、一気に走り出した。リナも普段の鍛錬で足が速いので、息を合わせて人混みをすり抜ける。
ビルの角を曲がり、裏通りに回り込んでようやく人目から逃れることができた。
「ふう……危なかったね」
リナが額の汗を拭いながら軽く息を整える。
「まさかこんな騒ぎになるなんて……」
ダンジョンでの死線に比べれば、こうした“日常的な混乱”のほうが神経をすり減らす。
「じゃあ、次は今日のメインイベントに行こう!」
とリナが元気よく合図した。
※ ※ ※
「ちょっと歩くなーと思ったら、まさかメイド喫茶に連れて来られるとは……」
新宿の繁華街。
雑多な人通りを抜けて、ネオン街を横目に細い路地へ進むと、そこには一軒のメイド喫茶があった。
レンガ調の外壁に小さな看板が立っており、「メイドさんがお出迎え♪」というポップな文字が目立っている。
いかにも“ここが噂のメイド喫茶ですよ”とでも言わんばかりだ。
リナに手を引かれて店の入り口で一息つくが、正直まだ心の準備ができていない。
俺としては、少し休憩する程度のつもりだったのだが……リナが「メイド喫茶行こうよ! 楽しいよ!」とテンション高めで提案してきたものだから、断る余地もなく連れてこられた。
「ふふっ、天城くん、そんなに緊張しなくても平気だよ」
笑顔でそう言われても、この“メイド喫茶”という空間に俺が馴染めるのか疑問だ。
「じゃ、行こうか。『おかえりなさいませ、ご主人様~♪』って言われるかもね!」
「……まじですか……」
苦笑しながら扉を開けると、カランカランというベルの音に続き、可愛らしいメイド服の女の子たちが「お帰りなさいませ~!」と笑顔で迎えてくれる。
確かに異世界感がすごい。
内装はまるでヨーロッパの古城をイメージしたような装飾で、幻想的な照明に満ちた店内にはマイルドなBGMが流れていた。
店の一角に腰を下ろし、メニューを受け取ってホッと一息。
メニューを見れば、ドリンク名に「萌え」「キュン」「うさ耳」「にゃんにゃん」といった単語が散りばめられていて、注文すら躊躇するレベルだ。
「……まあ、頑張って頼むか……」
俺がメニューに視線を落としていると、リナがスッと立ち上がる。
「ちょっと待っててね、天城くん。私、奥に用事あるから」
そう言い残すと、彼女は店の奥へスッと姿を消した。
(なんだ……トイレでも行くのかな?)
と考えつつも、周囲の客席を見渡す。
メイド喫茶らしく、コスプレしたメイドさんが何人かいて、笑顔で接客している。
客層は若い男性が多いが、中にはカップル客もちらほら――なるほど、こういうところに二人で来る人たちもいるのか。
(まさか俺が、こんな店に来るとは……)
しばし店内を眺め、ドリンクをどうしようかと悩んでいると、急に「じゃーん!」という明るい声が響いた。
「おかえりなさいませ♡ ご主人様♡」
「はあ!??」
思わず声を荒げる。
振り向けば、そこにいたのは――フリル付きのエプロンドレスを身にまとい、ツインテールをふわっと揺らすメイド姿のリナだった。




