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第十九話 冒険者ギルド

冒険者ストレンジャーギルドの前に立ち、俺は深く息を吸い込んだ。この場所には、もう自分には関係がない――そう思って足が遠のいていたが、今は違う。久しぶりに訪れたギルドの威圧感に、自然と足がすくむ。


(……俺のランクはFだ。どうせ何をやっても底辺のまま。それでも……)


心の中で呟きながら一歩足を踏み出した。扉が音もなく開き、ギルド内に足を踏み入れた瞬間、喧騒が耳を包み込む。


ギルドのロビーには煌びやかな武具や魔法装備を身にまとった冒険者ストレンジャーたちが行き交っていた。そこかしこで談笑や情報交換が行われ、掲示板付近では何人ものストレンジャーが次の挑戦先を吟味している。


ロビーの中央では、一人のストレンジャーがテレビ取材を受けていた。彼は高級なマントをまとい、ギルド「烈火の翼フレイムウィング」のリーダーであるギルバート=ラング――誰もが知るAランクの冒険者ストレンジャーだ。


「今回の挑戦では、A級ダンジョンの最速攻略記録を更新しました。ダンジョンコアの位置をいち早く察知するのが僕たち『烈火の翼』の強みですからね」


ギルバートがカメラに向かって語ると、周囲から歓声が上がる。


「さすがギルバートさん!」

「烈火の翼はやっぱり最強だよな!」


ファンたちの熱狂的な声援を横目に、俺はロビーの隅をこそこそと移動する。こんな世界とは無縁なFランクの俺がここにいること自体、場違いに思えた。


(まずは再登録しないとな……)


自分を奮い立たせるように思いながら、受付カウンターに向かった。



「いらっしゃいませ。どうされましたか?」


受付嬢が微笑みながら声をかけてくる。俺は少し緊張しながら答えた。


「あの……冒険者登録を確認したいんですけど」


「少々お待ちください」


彼女が端末を操作し、データを確認していると、すぐに結果が表示された。


「天城蓮さんですね。冒険者登録はされているようですが、更新が3か月以上滞っております。そのため、登録の更新が必要になります」


「そうなんですね……すみません、お願いします」


受付嬢はさらに端末を操作しながら、顔を上げた。


「それと、認定証はお持ちですか?」


「あ、それ……なくしました。すみません」


「そうですか……では、再発行が必要になりますね」


彼女は手慣れた様子で書類を差し出してきた。


「こちらにご記入ください。登録内容を確認し次第、認定証を再発行いたします」


「分かりました」


書類に名前やスキルを記入する。記入した《過去視》の文字を見て、一瞬ため息が漏れた。


数分後、再発行された認定証が手渡された。



名前:天城蓮

スキル:《過去視》

ランク:F


認定証を手に取ると、胸の中にわずかに虚しさが広がる。


(やっぱり相変わらずFランクか……)


小さく苦笑して、認定証をポケットにしまった。



認定証を受け取った後、俺は掲示板に張り出されたダンジョン情報を眺めていた。


(例のD級ダンジョン……廃墟エリアが多いってやつ)


目に止まったのは「廃墟の迷宮」と呼ばれるダンジョンの詳細だった。


【廃墟の迷宮】


ランク:D

説明:崩れた建物が広がる廃墟エリアを中心としたダンジョン。魔物の危険度は低いが、迷路のような構造のため探索に時間を要する。アイテムの散乱が確認されており、回収を目的とした冒険者が多い。


(ここだ)


地図を頭に入れながら、マジックバッグを取り出した。


バッグを開け、中に収めたアイテムを確認する。進化した剣や槍、宝石、靴――どれもランクAの力を持つアイテムばかりだ。


「これだけあれば……いける」


バッグを閉じ、改めてダンジョンの地図を頭に入れた。


(こんな感じでギルドに登録されているダンジョンは、わざとダンジョンコアを破壊せずに残してあるんだろうな……初級ストレンジャーたちの訓練用に)


* * *


ロビーの片隅、雑然と置かれたテーブルを囲む三人のストレンジャーが、不敵な笑みを浮かべて座っていた。彼らの装備は所々が擦り切れ、武具には目立つ傷跡が刻まれている。一見すればどこにでもいる冒険者ストレンジャーに見えるが、その視線は冷たく、どこか油断ならない雰囲気を醸し出していた。


「おい、見たか? あのガキが持ってたバッグ」


片方の肘をテーブルに置き、短い髭を触りながら一人が口を開く。彼の目は、ロビーの向こう側でマジックバッグを確認している少年――天城蓮に釘付けになっていた。


「ああ、間違いねえ。あれ、マジックバッグだろ」


別の男が低く唸るような声で答える。その瞳は鋭く、天城がバッグを閉じるのをじっと見ていた。


「くそ、Fランクのガキのくせに、どうやったらあんなモン手に入れられるんだよ?」


三人目が舌打ちしながら小声で呟く。その表情には、純粋な疑問よりも妬みの色が浮かんでいた。


「ちょっと後をつけてみるか?」


「お宝がザックザクなら、黙って見過ごす手はねえよな」


三人はニヤリと笑い、テーブルの上に置いていた空のカップを片付ける素振りを見せた。


天城がギルドを後にすると、彼らも静かに立ち上がる。目立たないように、ゆっくりと後を追い始めた。


* * *


ギルドを出た俺は、その足で直接ダンジョンへ向かった。家に帰る時間も惜しい。初めてのソロ探索に向けて、胸の中に静かな決意が広がっていた。


廃墟の迷宮――そこに眠るアイテムと、自分の可能性を確かめるために。


「さあ、行くか」


目の前に広がるダンジョンゲート。その不気味な光に足を踏み入れた。



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― 新着の感想 ―
いやー、ほんと持っている色々なアイテムが凄いだけで、本人変わらないのに奪われるとか、全く考えていないようだね。そんなに治安が良いとは思えないので、本人が愚かだというだけでしょうね。
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