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第百八十話 覚醒者と闇の力

イザナさんの足音を追いかけながら、僕は少し胸が高鳴っていた。


彼がこんな風に声をかけるときは、大抵重要な話があるはずだからだ。


「天城くん、少し話がある」


「はい、イザナさん」


振り向いたイザナの表情は厳しく、いつもの穏やかな雰囲気が嘘のように消えている。


「覚醒者のことを話しておこう」


その言葉に、思わず息を詰まらせる。


「覚醒者……ですか」


「そうだ。私は、覚醒者こそがこの世界のダンジョンゲートの謎を解く鍵になると信じている。人類の脅威となる『悪神』たちを退けられる存在が、覚醒者なんだ」


イザナの眼差しには確固たる確信が宿っている。


だけど、そんな大層な存在に自分がなれると思えず、戸惑いが胸を締め付ける。


「そんな……僕なんかが、覚醒者に……?」


正直、半信半疑だ。


だが、イザナは首を横に振り、厳かに続ける。


「いや、天城くんの成長速度がそれを証明している。私はそれを目の当たりにしてきたし、ここまでの戦いで中国のS級ストレンジャーたちだって理解したはずだよ」


彼の言葉はまるで俺の内面を見透かすよう。


思わず黙り込んでしまう俺に、イザナはさらに一歩踏み込むような声で告げる。


「ただ……懸念もある。君が闇属性の力に溺れそうなことだ」


「……!」


「闇属性は強大だ。だが、そのぶん自我を保てなくなる危険が伴う。力に呑まれ、自分を見失った者が歴史の中に何人もいた。君が真の力を発揮するとき、自分自身を完全にコントロールできなければならない」


イザナの言葉が胸に重く響く。


過去にも何度か、俺は闇の力を暴走させかけたことがあった。


もしあのまま突き進んでいたら……そう考えると、戦慄が走る。


「はい……肝に銘じます」


答えると、イザナはようやく柔和な笑みを見せてくれた。


「よし、それでいい。……さぁ、戻ろうか」



イザナと二人で大広間の中央に戻ると、そこには賑やかな笑い声が響いていた。


皿やグラスがテーブルの上を所狭しと埋め、あちらこちらで中国軍と日本団のメンバーが言葉を交わしながら打ち解け合っている。


激しい戦闘でぶつかり合ったばかりだとは思えないほど、温かな空気が流れているのを感じる。


「天城くん、イザナさん、こっちこっち!」


白石が手を振って呼んでいる。


隣では大刀がすでに四川風のエビチリや黒酢の酢豚などをたいらげ、満足げに腹をさすっていた。


霧島は向かいに座る陳嵐と笑みを交わしている。


どうやら先ほどまでの対立はすっかり無くなり、お互いの剣技を称え合っているようだ。


「楽しそうですね」


俺はそう声をかけながら席に戻り、イザナも軽く頷き、席につく。


料理はまだまだ残っていて、青椒肉絲チンジャオロースや海老のマヨネーズ和え、フカヒレの姿煮など新たに追加された高級中国料理が運ばれてきていた。


「お二人とも、ちゃんと食べてくださいね。せっかくこんなにご馳走があるんですから」


白石が微笑みながらフカヒレの姿煮の器をこちらに勧めてくる。


俺は「はい、ありがとうございます」と礼を言い、茶色く透き通ったスープに浸ったフカヒレを恐る恐る箸で掴んだ。プルプルした弾力がなんとも美味しそうだ。


「わ……とろける感じです……!」


口に入れた瞬間、ゼラチン質のフカヒレと濃厚な鶏ガラスープの味が絡み合い、贅沢すぎるコクが広がった。


横目に目をやると、イザナも北京ダックをクレープに包みながら落ち着いて頬張っている。彼は微笑を浮かべつつ「ん……さすが有名店の味だな」と満足げにしていた。


「天城くん、中国は最高だな!!」


大刀が、目が合うなり言ってくる。


その口周りには何やら唐辛子の赤い色が付いていて、どうやら火鍋をがっつり堪能しているらしい。


「大刀さん。どうですか、そっちの火鍋は」


「最高だ! 羊肉も牛肉もスパイス効いててすごくうまいぞ! しかし、辛さがかなり強いから気をつけろよ」


大刀さんが満面の笑みで火鍋のスープをすくって見せる。


匂いだけでも痺れがきそうだが、これが本場の味だと思うと試してみたくなる。


霧島は陳嵐から饅頭マントウをもらって、「これパンみたいに柔らけぇ…うまい!」と驚きの声を上げている。


「よかったね、霧島くん」


白石がくすっと微笑い、彼らのやりとりを横目に見ていたイザナが俺に小声で言う。


「戦いを経て、こうして打ち解けられるのはいいことだな。天城くんも、しっかり休んでおくといい」


「はい、イザナさん」


俺はイザナの言葉に頷きつつ、安心感を覚えた。


ついさっきまで殺伐とした空気があったのが嘘のように、今は美味しい料理を囲んで笑顔が広がっている。


闇の力や覚醒者の話――深刻な課題は山積みだけど、今は仲間たちとこの中国料理を味わいながら、少しだけ心を解放してもいいのかもしれない。


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