第百七十八話 過去視の勝利
鋭い殺意が俺の全身を襲う。反射的に身をすくめそうになるが、同時に俺はマジックバッグへ手を伸ばす。
過去視による戦闘解析で、最後に残しておいた切り札がある――。
【S級アイテム:神鏡の盾】
種別:防具/盾
ランク:S
説明:古代の魔導士が作り上げた防御の名品。敵の攻撃をそっくりそのまま反射する。
【付与効果】物理攻撃反射、耐久性+300%
盾を素早く構え、槍の衝撃を受け止める。
その時、ぎしりと腕に激震が走るが、同時に光が一瞬きらめき、攻撃のエネルギーが逆流した。
強大な力が反転し、凄まじい衝撃波が逆に楊剣峰へ襲いかかる。
そこで、ニヤリと笑う楊剣峰。
その攻撃が楊剣峰を突き刺す前に……
「なっ……!? こんな攻撃が……!」
楊剣峰が消え失せた。
(やはり“未来視”で俺の防御法を読んでいたか……!)
消えた楊剣峰の姿を必死に追う俺。
「ここだよ」
敵は空中に飛び上がっていた。
その声には余裕が混じる。
【S級スキル:飛天槍閃】
効果:高速落下しながら、槍で対象を貫く強力な一撃。
「これで勝った!!」
空中からの急降下。
落下する槍が空気を圧し潰し、周囲の観衆が悲鳴を上げるほどの衝撃波を放っている。
とてつもないスピードで、俺はよけることさえままならない。
ドガァン!!!
轟音が滑走路を揺るがし、その攻撃は、俺を貫いた。
「やった!!」
喚起する楊剣峰。
槍に貫かれ、即死に近い俺をみて、楊剣峰は勝利宣言をする。
「どうだ! 未来視は無敵! 過去視はゴミスキル!! 俺の勝ちだ!!」
だが――
「……は?」
槍が貫いたはずの俺の姿は、霧のように消えていく。
そこに“本物”の俺はいない。
楊剣峰が目を見開き、耳を疑うように周囲を見回すが、杳として俺の姿が見当たらない。
「ここからは、11秒後の未来だ」
いつの間にか、俺は彼の背後に立っていた。
呆然とする楊剣峰の耳に、俺の低い声が届く。
「何……!? そんなバカな!」
狼狽を隠しきれずに振り返ろうとする楊剣峰――そこで、俺は新たなる過去視の力を発動する。
《過去視:極》のもうひとつの効果。
それは、「特定の“過去の姿”をうつしだすことができる」効果。
つまり、俺は10秒前の自分の姿を映し出し、敵に見せ、現実と錯覚させることで欺いたのだ。
本当の俺は、別のところに身を伏せながら。
彼の未来視は、あくまで“今から10秒以内”の動きを読み取るだけ。
けれど俺の10秒以上前の “過去の俺”の姿が、敵を混乱させたのだ。
楊剣峰がようやく察知して槍を振り向けようとするが、遅すぎる――
【S級スキル:光刃剥奪】
効果:対象のスキルを打ち消し、ランクを下げる。
俺の断罪剣が白光を放ち、楊剣峰の身体を斜めに切り裂く。
瞬間、“未来視”の波動が弾け飛び、空気に溶けるように消えていった。
「ぐっ……!!」
能力のランクダウン。
楊剣峰が苦痛にうめき、その槍を必死に握りしめようとする。
だが、もう“未来視”の力は働いていない。
予知も先読みもできない、ただの人間の反応速度になってしまった彼に、今の俺を止めることは難しい――
「なっ……!? 未来視が……威力が落ちた……?」
彼は焦燥を浮かべながら槍の柄を握り込むが、力がうまく伝わらないのか、がくりと膝を落とした。
その一瞬の隙を見逃さず、俺は雄叫びとともに大きく剣を振り上げる。
全力のラッシュを仕掛ける。
「うおおおおおおおお!!」
ズバッ! ドガッ! ズシャァッ!
圧倒的な速度で、楊剣峰の防御を崩し、一撃一撃が確実に彼の体を切り刻む。
さっきまで華麗に先読みしていた男が、なす術なく吹き飛ばされる。
その姿に観衆が息を呑み、ざわめきが滑走路を震わせる。
「が……ぁ……っ!」
最後の一撃が入った瞬間、楊剣峰の槍が滑走路へガランと落ち、彼は悔しそうに膝をついて崩れ落ちる。
「そんな……未来視が……過去視に……負けるなんて……!」
静寂が一瞬で世界を包み、誰もがこの結末を理解できないように息を止めている。
そして――
「まさか……おまえ!! 【覚醒者】か……!」
俺は激しい呼吸を整えながら、剣を納める。
「【覚醒者】かどうかはわからない。ただ一つ言えることは、俺のスキルを信じる力のほうが、君よりも強かったってことだ」




