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第百七十七話 未来視の弱点


※ ※  ※


あたりが闇に包まれ、気づけば目の前には幼い楊剣峰が立っていた。


彼が初めて槍を持ったのは、町外れの空き地で拾った古い朽ち槍。


刃先は錆び、柄はひび割れていて、子どもの手には重すぎる代物だったが、それでも構えるたび胸が高鳴ったという。


「お前は将来、きっと大物になれる」


そう囁いたのは、当時の師匠。


彼が特別に教えを受けたわけではなく、ある日訪れた武芸大会で奇妙な動きをする子どもに興味を持った師匠が直接声をかけたのがきっかけだった。


当時の楊剣峰は家もなく、日々を行き当たりばったりで生きていた。


その彼にとって、槍こそが力の象徴だった。


初めて師匠のもとで正式に槍術の基礎を習い始めたころ、彼はすぐに頭角を現した。


周りの子どもが数時間でやっと覚える動作を、楊剣峰は一時間足らずで再現し、さらに自分なりに改良を加えたりする。誰もが彼の柔軟な思考と才能に目を見張った。


しかし、その天才ぶりゆえに挫折とも無縁かと思われたが、現実は違った。


ある日、高位のストレンジャーと戦闘する機会が訪れる。


彼が“将来有望な弟子”として紹介された大会で、たまたま模擬試合を申し込まれたのだ。結果は惨敗。


槍を振るう前に、一瞬で背後を取られ、床に叩きつけられる。


呼吸もままならず、「自分は弱い」と痛感した。


「もっと強くなりたい……もっと、先を見通せれば……!」


その悔しさが、後の“未来視”開花に繋がった第一歩でもあった。


楊剣峰が10歳前後の頃。


槍術の厳しい鍛錬を続けながらも、彼はさらに何か新たな力を求めていた。


師匠がぽろりと言った一言――「お前の感覚は、まるでまだ見ぬ未来を掴もうとしているかのようだ」


その言葉に、少年の心は妙な確信を得る。


「未来が見えれば、どんな攻撃だって避けられるんじゃないか?」


そう思い始めると、まるで脳が覚醒するように、小さな前兆が訪れた。


夜間の稽古中、突然視界が一瞬ホワイトアウトし、次の瞬間に相手が放つはずの攻撃が頭に浮かんだのだ。


そのせいで思わず体を動かし、実際に相手の一撃をかわしてしまう。


周囲は「奇跡だ!」と騒いだが、楊剣峰本人は不可思議な感覚に戸惑うばかり。


楊剣峰は自分でも驚くほどに「相手が行動を起こす前の瞬間」を事前に知り、身体がそれに合わせて動くことができた。


「お前は、この力を活かせば最強になれる」


師匠の確信めいた言葉が、楊剣峰に未来視の存在を信じさせる決定打となった。


しかし、当時はまだ微弱で、いきなり長時間先の出来事まで見通せるわけでもなく、また視界が真っ白になるような頭痛に苦しむこともあった。


それでも「未来視は、俺を最強にする」と信じ、彼は訓練をさらに厳しくしていく。


楊剣峰は瞑想と集中力を徹底的に鍛え上げた。


12歳の頃には、中堅クラスのストレンジャーを相手取っても余裕の勝利を収める。


15歳になるころには彼の名はもはや地元だけでなく、広く中国内のストレンジャー界隈でも囁かれるようになった。


それでも彼は満足せず、苦しいトレーニングを続け、「未来視」の到達点へと辿り着いたのが17歳の終わり。


その頃、彼はすでにS級と呼ばれるほどの実力を誇り、多くの強敵を打ち破ってきた。


しかし――


「なぜ……どうしてこれ以上は見えないんだ……!?」


ある日、絶対的な強者相手に戦ったとき、楊剣峰は明確に“10秒先”を超える映像が見えない事実を突きつけられる。


槍で相手の動きを潰していくが、10秒を超えた長期戦になるほど視野が不安定になり、予測が外れる事態が増える。試合には勝てたが、ギリギリだったという苦い経験だ。


そのとき強く感じたのだ――「10秒の壁」が存在すると。


師匠や研究者たちと共に分析しても、「神経や脳の負担が限界」「魔力の持続時間が足りない」など諸説あるが、理由ははっきりしないまま。


ともかく、どう頑張っても“10秒先”より遠い未来を視ることはできなかった。


楊剣峰は「10秒先」の間に確実に相手を仕留める戦闘スタイルを確立する。


「10秒もあれば十分だよ。どんな強敵でも、相手が動きを起こしてから終わるまで、俺が事前に把握できれば……ね」


そう言い放つ姿は、まだ18歳という若さとは思えないほど自信に満ちていた。


※ ※  ※


「っ……!!」


目を開くと、楊剣峰の“未来断槍”が発動寸前――


だが、俺は息を切らしながらも確信の笑みを浮かべることができた。


「未来視の弱点がわかったぞ……!」


バッと視線を合わせると、楊剣峰は微かに眉をひそめる。


「何を言っている?」


「お前の未来視は最強に見えるが……実はたった10秒しか読めないんだろう! それさえ分かれば、手はある!」


そう言い放ったとき、周囲から「えっ……?」というどよめきが起こる。


楊剣峰が一瞬だけ表情を崩したのを、俺は見逃さなかった。


やはり動揺している……!


(やつにはやつなりの苦労と努力があった……でも、これはストレンジャーとストレンジャーの真剣勝負だ。絶対に負けるわけにはいかない!!)


槍を構えながら、楊剣峰が小さく舌打ちしている。


「ふん、知ったところでどうする。確かに俺の見通せる未来は10秒程度。でもその間に、お前の攻撃は十分封じられるんじゃないのか?」


楊剣峰が溜めに溜めていた大技――あの槍が漆黒の空気を切り裂き、眼前で爆発的な力を放つ。


その圧倒的な殺気に、思わず体がビクリと反応したが、ここで怯んだら勝てるわけがない。


「これで終わりだ!」


楊剣峰が容赦なく叫ぶ。

槍が閃光を纏いながら突き出され、“あらゆる防御を貫く必中の一撃”を目指して、俺を仕留めようとしている。


【S級スキル:未来断槍みらいだんそう

効果:未来視によって最も効果的な攻撃の瞬間を見極め、対象に必中の一撃を叩き込む。


(この一撃……止める……!)


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