第百七十六話 《過去視》の新しいスキルツリー解放
「ぐっ……!!」
楊剣峰の槍が再び俺を捉え、宙を舞うように吹き飛ばされる。
強烈な衝撃が胸を刺し、呼吸が乱れまくる。必死で体勢を立て直そうと地面を蹴るが、あまりの痛みに足が震え、思うように動かない。
(まずい……これ以上は……!)
奴の攻撃はことごとく先読みされる。
何か行動を起こそうとすれば、「未来で見たよ」とあざ笑うように先手を打たれてしまう。
この“未来視”――最強ともいえるスキルを前にして、俺の《過去視》はゴミ同然……と、いま痛感している。
楊剣峰が口元を歪めて笑い、槍を軽く回す。
その身のこなしに、まるで疲れを感じさせない余裕があるから悔しい。
一方の俺は息を整えるだけで精いっぱい。体にはいくつもの斬り傷が走り、動くたびに鋭い痛みが走る。
(未来視……恐ろしいスキルだ。でも、万能であるはずがない)
ほんのわずかな矛盾を探るように、思考を研ぎ澄ませる。
奴の未来視がどこまで有効なのか、どれくらいの範囲や時間が見えているのか――きっとスキはあるはず……!
しかし考える間もなく、楊剣峰はまた動き出す。
槍を構えて間合いを詰める気配。
俺はマジックバッグに手を伸ばし、盾を素早く取り出す。
【金剛の盾】
種別:防具/盾
ランク:A
説明:古代の魔導士が作り上げた防御の名品。同ランク以下の魔法攻撃を完全に無力化する力を持つ。
【付与効果】魔法無効化、耐久性+200%
すると――
「おっ、よく防いだね」
そのひと言に俺は内心で驚く。
(なんだ……? 今の盾の使用は未来視できていなかった?)
小さな違和感を覚えるが、じっくり推論する隙は与えられない。
楊剣峰が一歩退き、次の攻撃態勢を取った。
「さて……とどめといこうか」
静かな呟きと同時に、空気がビリビリと震えるような殺気に変わった。
「……ッ!? なにを……」
彼の槍がうっすらと光を帯び、地面に突き刺される。
【S級スキル:未来断槍】
効果:未来視によって最も効果的な攻撃の瞬間を見極め、対象に必中の一撃を叩き込む。
観衆が「おお……!」とどよめき、俺は背筋に嫌な汗が流れる。
もしこんな技を放たれたら、どんなに素早く動いても奴の“未来視”で先回りされるだろう。
俺は必死に考えるが、頭が追いつかない。
(――でも、なぜあの盾を出した瞬間だけは読めなかったんだ……?)
脳裏に先ほどの場面がフラッシュバックする。
楊剣峰が「おっ、よく防いだね」と言ったあの一瞬。そこに何かカギがあるはず……!
でもあまりに時間がない。
立ちすくむ俺を尻目に、楊剣峰は静かに“最後の一撃”を準備している。
「君のゴミスキルじゃ、俺の未来視には勝てないよ。過去ばかり見たって、これから起こる未来は変わらない」
槍の穂先が淡い光をまとい、彼の周囲から濃密なオーラが漂い始める。
“終わり”の予感。
眼前に死のイメージが湧きそうになる。
その時――頭にもういちど声が響いた。
《過去視をみくびるな》
「……!? 誰だ……? スペシリア……?」
そう。
どうして未来視に対抗できないなんて思い込んでいたんだ――何か打開策はあるはず。
「……やってやる!!」
ハァ、ハァと荒い呼吸の中、俺は剣を構え直す。
「《未来視》がなんだ……ゴミスキルと呼ばれようが、俺の《過去視》にはまだ可能性がある。これでお前の圧倒的スキルを凌駕してやる!」
「ふふ、面白いね。でも、君の行動はすべて読める。ま、その意思だけは認めてあげるよ」
俺は一瞬、瞳を閉じる。
そして《過去視》の能力を限界まで引き出す。
(《過去視:改》!!)
そう気合いを入れた瞬間……。
俺の《過去視》スキルツリーに、《過去視:改》の次のツリーが表示された。
スキルの、新しい進化の萌芽だった。
「!!」
――敵の“未来視”が完璧ではなかった証拠が、必ずある。
「……いくぞ!!」
過去の戦いすべてを、もう一度振り返ればいい。
俺の《過去視》というゴミスキルは、過ぎ去った出来事を読み解く力――それを限界まで活かしてみせる。
「ゴミスキルなんかじゃない! 俺の過去スキルで……未来を超える!!」
一度決意を固めると、頭の中で何かが弾ける感覚があった。
《過去視:極》。
あたらしいスキルの開花。
【S級スキル:過去視:極】
効果:対象の過去を瞬時に遡り、その歴史を追体験する。
俺は楊剣峰をじっと見据え、そのスキルを発動した。
視界が一瞬で暗転する感覚――そして、膨大な情報が脳内を駆け巡る。




