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第百七十五話 《過去視》VS《未来視》

(俺の《過去視》は、過ぎ去った出来事しか見えないゴミスキル……相手の未来視なんて、完全に上位じゃないか!)


何をしようとしても、向こうは未来を見て対策を立ててくる。蒼狼の戦靴で素早さを上げても、それさえ読まれてしまうのか……?


俺は歯を食いしばって、立ち上がろうとする。


痛む体をだましながら、断罪剣を握り直す。


場を支配しようとしている楊剣峰が、こちらを冷静に見下ろしていた。


「どうする? もう立ち上がれないなら、それでもいいんだよ」


相手の言葉に、その表情には侮蔑でもない。


ただ、圧倒的優位にいるがゆえの余裕とでも言うのだろうか。


「まだまだ!!」


楊剣峰が涼やかな眼で俺を見下ろし、俺は何とか体勢を立て直しながら拳を強く握りしめる。


仲間たちの声援が遠くでこだまする中、俺は自問する――「どうやったら未来視を出し抜ける?」


激痛に耐えながら、俺はその答えを探るために剣を構え直す。


楊剣峰の槍が、俺の眼前で鈍い輝きを放つ。


中国軍が四連敗を喫し、観衆が沈痛な空気に呑まれる中で現れたこの男は、わずか18歳にしてS級――“未来視”のスキルを持つという化け物だ。


さきほどのやり取りから、彼の“未来視”で俺の動きが読まれているのは明白。


だが、それを分かっていても、どう対処すればいいのか正直分からない。


「そんなに驚くことじゃないさ。未来が見えるなら、君が次に何をするかなんてお見通しだよ」


「っ……!!」


(未来視……俺の攻撃もすべて先読みされてしまうのか……!)


こんな相手にどうやって――と焦燥感が胸を焼くが、ここで引き下がるわけにはいかない。


(劣勢のままじゃ何も変わらない……! どうにか動かないと!!)


俺はマジックバッグから氷刃の双剣を取り出し、一気に間合いを詰めた。


【A級アイテム:氷刃の双剣】

効果:冷気を帯びた剣で、斬撃のたびに相手の動きを鈍らせる。


「はあっ!」


俺は双剣の片方を低い角度から振り上げ、もう片方を水平に薙ぎ払う二段攻撃で、楊剣峰のスキを突こうとする。


だが――。


「未来で見たよ」


楊剣峰が余裕の笑みを浮かべて言葉を発すると同時に、その槍はわずかな身動きで俺の斬撃を完全に回避した。


さらにカウンターで突き出される槍が、俺の腹を正確に捉える。


「ぐあっ……!」


鋭い痛みが腹部を貫き、俺は宙を舞って地面へ叩きつけられた。


乾いた衝撃音とともに、視界が揺れる。


(やばい……!!)


体中に駆け抜ける苦痛、息は浅く乱れる。


すぐに立ち上がらなければいけないと焦るが、楊剣峰はまるで俺の思考を読んでいるかのように次の一手を用意していた。


【S級スキル:天衝槍てんしょうそう

効果:槍を閃光のように突き出し、対象に高速の連続突きを叩き込む。


「この一撃で決めるよ」


冷静な声が耳を打ち、同時に槍の先端が何度も閃光を描く。


圧倒的な速さの連続突きが俺の体を穿ち、一撃ごとに鈍い衝撃が伝わる。


防御しようとしても、未来視で俺の動きを読まれているのか、ガードよりも先に攻撃が届いてしまう。


「ぐっ……!!」


たまらず後退しようとするが、体勢が完全に崩れ、このまま押し切られそうな雰囲気だ。


彼は容赦なく追撃を続け、槍の軌跡がコンクリートの地面を削り、火花を散らせる。


「どうすれば……!!」


頭を巡らせるが、思考が追いつかない。


身体は悲鳴を上げ、意識が遠のきそうになる。


(どうすれば、ヤツに対抗できるんだ……!)


俺のスキルは、《過去視》。《未来視》とはことなり、全く使えないゴミスキル。


《過去視》は、終わった出来事を知る力にすぎない。


一方、《未来視》はこれから起こる出来事を先に掴み、対処できるスキル――差は歴然だ。


(やっぱり……俺のゴミスキルは役に立たない……)


絶望的な思いが頭を覆いかけた、そのとき。脳内に不思議な声が響く。


《過去視をみくびるな》


(誰だ……!? まさか……?)


その言葉をうけて、俺はこれまで《過去視》に幾度となく助けられた記憶を思い出した。


確かに過去の事象しか見えないかもしれない。


しかし、それを利用して危機を乗り越えてきた瞬間があったはずだ。


(そうだ……俺はこのゴミスキルに救われて、ここまで生き残ってきたんだ……!)


かすれた呼吸のなかで、俺は意識を集中させる。


未来視に対抗するには、どうすればいい?


相手がまだ知らない動き――いや、動きを読む前に、過去の出来事から何かヒントが得られるかもしれない。


過去にこのような状況で活路を開いた経験は……?


《過去視》は過去の光景を鮮明に再現できる。


戦いの歴史や伝説の戦士たちの動き――もしそこから“対未来視”の可能性を導き出せるのなら……。


その考えが頭をもたげたとき、俺はゆっくりと立ち上がる決意をした。


敗北を覚悟するにはまだ早すぎる。


楊剣峰が冷酷な眼差しでこちらを見て、槍を振りかぶりながら言う。


「もう終わりにしようか そんな無駄なあがきは必要ない」


「いいや……俺はまだ……終わらない」


(さあ、最悪の未来を変える方法を……過去から導き出すんだ……!)


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