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第百六十九話 霧島瞬VS陳嵐


中国軍が二連敗してからというもの、滑走路の空気は明らかに張り詰めている。


白石さんが趙雪梅を倒した直後、観衆のざわめきは増し、ストレンジャー部隊のトップ――ホアンの表情は険しく歪んでいた。


遠巻きに見ても、その怒号が部下たちを震え上がらせているのがわかる。


「何をやっている 次は絶対に負けられんぞ」


ホアンの鋭い声が滑走路に反響すると、中国側のS級ストレンジャーたちも焦ったように目を見合わせる。彼らの視線は厳しい緊張感を帯びていた。


「次は私がでるわ」


静かな声が滑走路の端から響き、姿を現したのは三人目となる中国S級ストレンジャー、陳嵐チェン・ラン


その足取りは舞うようにしなやか。


背中で束ねた長い黒髪が風に揺れ、腰には二本の短剣――双刀を携えている。


彼女が中央へ進むたびに、周囲の中国兵たちは期待の声を上げる。


ホアンも「今度こそ頼むぞ」というように腕を組み、険しい面持ちで彼女の動きを見守っていた。


「次は俺が行きます」


日本団のほうから、霧島が静かに声を上げる。


彼は二本の剣を腰に差したまま、鋭い眼差しを陳嵐に向けた。


その瞳には、冷静さの奥に燃える闘志が宿っている。


「双剣同士の対決、というわけだな」


イザナさんがつぶやく。


「ええ。本当の二刀流使いはどちらか、証明して見せますよ」


すでに二連勝している日本団としては、この三戦目でも勝利を掴んで中国側の戦意を完全に削ぎたいところだ。


(でも、相手はおそらくスピード系……霧島さんも同じスタイルの戦い方だ。これは激戦になりそうだ)


霧島さんは小さく息を吐き、滑走路の中央へ。


俺はひそかに「頑張ってください」と祈るように心でつぶやいた。


※ ※  ※


滑走路のど真ん中で向かい合う霧島と陳嵐。


周囲には、さきほどの連敗で焦る中国兵士たちの視線が集まっており、黄の怒りを恐れる空気が漂っている。


一方、俺たち日本団にも、張り詰めた熱気が辺りを満たしていた。


「日本のS級ストレンジャーさん……あなた、なかなかイケメンじゃない。私に勝てたらデートしてあげてもいいわよ」


陳嵐が誘惑混じりの挑発をする。


その艶やかな笑みには明らかな自信が滲み出ている。


「それはぜひお願いしたいですね。中国の観光名所を一緒に回らせてほしいです」


霧島が穏やかな笑みで応じる。


陳嵐はそのやり取りにクスリと笑い、


「まあ、話がわかるじゃない……でもね」


そう言って双刀の柄に指を添えると、不敵に目を細めた。


「あなたがデートできるのは、病院のベッド巡りよ」


言葉が終わるより早く、陳嵐は地面を蹴って跳躍。


そして着地の瞬間、彼女の動きが急加速した。


足元から土煙が舞い上がり、一瞬で姿がブレる。


「速い……!」


俺が思わず息を呑むほど、その移動は凄まじいスピード感を伴っている。


【S級スキル:倍速の舞】

効果:自身のスピードを2倍、3倍と上げる。音速に近いレベルで移動できるため、肉眼では捉えられない。


観衆が「うわあ……!」と悲鳴のような声を上げる。


瞬く間に霧島と陳嵐の距離がゼロになり、陳嵐の双刀が連続で霧島を斬りつけようと襲いかかる。


「くっ!」


霧島が双剣を構え、防御に回る。


しかし、それでも陳嵐のスピードは桁外れだ。


左刀が斜めに走れば右刀が背後を狙う――そのコンビネーションの前に、霧島の袖がかすめられ、布が舞い散る。


「甘いわね」


陳嵐が後ろに跳んで余裕の笑みを浮かべる。


悔しそうな表情を浮かべながら、霧島は深い息を吐き、双剣を握り直す。


「そちらが速さで来るなら、俺も負けていられない」


霧島が短く呟き、二本の剣を逆手に構える。


足元に黒い影のような魔力が揺れ、まるで空気を歪ませるように見える。


【S級スキル:シャドウステップ】

効果:影のように高速移動しながら、敵を翻弄する。複数の残像を残し、相手の視界を撹乱。


一瞬で霧島の姿がブレ、数体の残像が滑走路を走り回る。


観衆はさらに大きなどよめきを上げる。


「へえ……悪くないわね」


陳嵐がわずかに口角を吊り上げつつ、その場で双刀を交差させる。


だが、霧島は残像の一つをフェイントにして一気に接近し、二本の剣を閃かせた。


ガキンッ!


激しい金属音が高く響き、火花が散る。


霧島が連続で斬りかかるが、陳嵐はその場で受け止めながらステップを踏む形でかわし、再び速度を上げる。


(どちらもすごいスピード……こんな超高速戦、目で追うのがやっとだ)


霧島は双剣を使い、陳嵐は双刀。武器の特性は似ているように見えるが、戦い方はそれぞれで異なっていた。


霧島は残像を活かしたフェイントや正確なガードが持ち味。


一方、陳嵐は純粋なスピードを活かした怒涛の連撃で押し切ろうとしている。


「はあああっ!」


霧島が声を張り上げながら、左の剣をフェイントにして右剣で本命の一撃を狙う。


対して陳嵐は、それを見透かしたかのように素早く後方へ跳躍し、双刀をクロスさせて弾き返す。


「それがあなたの本気? まだまだでしょ」


陳嵐の笑い声が響く。


「あなたが望むなら、もっと加速してあげる」


陳嵐が双刀をぐっと握りなおし、足元にもう一度魔力の紋様を浮かべるようにして集中を高める。


すると空気がビリビリと震え、彼女の体がさらに一段速くなる。


【S級スキル:倍速の舞・きわみ

効果:さらにスピードを倍増し、連撃を組み合わせて敵を一気に畳みかける。


「くっ……速い……!」


霧島が咄嗟にシャドウステップを発動しようとするが、それでも陳嵐の急加速には追いつけない瞬間が生じる。


ほんのわずかな隙間を見極めた陳嵐が双刀を振り下ろし、霧島の腕をかすめて血が滲む。


「ベッド巡りも近そうねぇ!」


陳嵐が余裕たっぷりに嘲笑しながら、もう一撃、二撃と斬撃を重ねる。


中国兵士の群れが「いいぞ、陳嵐さま!」と歓声を送り、ますます滑走路が騒然となる。


「スピードを極めるのは、相手の予測を裏切る動き……俺だって散々やってきた。まだ負けられない」


俺はわずかに聞こえた霧島の呟きを拾った。


彼は過去に、敏捷性にこだわりすぎて足を壊しかけた経験を持つと聞いたことがある。


それでも懸命に鍛錬を積み、今のシャドウステップを会得したのだ。


(霧島さん……どうか頑張ってください)


そう願いながら見守ると、霧島は再びシャドウステップを応用して、複数の残像を生み出し、陳嵐の周りを奔走し始めた。


霧島が影のような残像をさらに増幅し、3つ、4つもの分身が滑走路を左右に走り回る。


陳嵐は倍速の舞・極でさらなる速度を維持しながら、双刀を連続で振り回して幻影を払おうとするが、どこが本物なのか読み切れない。


苛立った表情を見せつつも、その速度は衰えないから恐ろしい。


「ちっ……どこにいるの!」


空を裂く金属音、コンクリートを削る足音、舞い散る砂埃。


観衆は目が追いつかないほどの高速バトルに圧倒され、悲鳴に似た応援が飛び交う。


「霧島さん! ファイト!」


俺は思わず拳を握りしめて叫んだ。


白石や大刀、イザナも固唾をのんで見守っている。


しかしそこで――


「さあ……さらにスピードをあげるわよ! イケメンさん!」


倍速のさらに倍を極めた陳嵐の突撃が、


ついに霧島をとらえ、陳嵐の二本の剣戟が彼を穿った。


「がはっ……!!」


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