第百六十七話 自分と仲良くね
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あたしは幼い頃から“才能がある”と言われ、魔導士養成学校でもエリートコースを歩んできた。
周りの大人たちは「白石結衣は素晴らしい素質を持ってる」「魔力が無限に湧き出るらしい」なんて口々に言って、あたしを特別扱いしてきた。
でも、その“特別”が重荷になるなんて、当時のあたしは思いもしなかった。
“魔力無制限”——一見、無限の可能性を秘めた夢のような才能だと言われる。
だけど、実際はその制御が異常に難しくて、少し気を抜けば魔力が暴走してしまう。
爆炎の魔法を使おうとして、コントロール不能で周囲に大怪我を負わせてしまったこともある。
学校の教師からは「危険すぎる」と距離を置かれ、同級生からは「あんな化け物と一緒にいると巻き込まれる」と陰口を叩かれた。
孤独だった。
魔法を使えば暴走のリスクがある。
かといって使わなければ、“才能があるのに怠けている”と責められる。
八方塞がりの中、あたしは自分の殻に閉じこもっていた。
そんなとき出会ったのが、ある女性ストレンジャーだった。
彼女はベテランで落ち着いた雰囲気を持ち、あたしみたいな厄介な子にも臆さず接してくれた。
「白石結衣、君は特別な才能を持ってる。でも、それを怖がって抑え込むんじゃなく、自分と仲良くしないといけないんだよ」
最初は何を言ってるんだろうと反発ばかりしていたけど、彼女は諦めずにあたしを導こうとしてくれた。
しかし、あるダンジョン探索で事件が起きた。
あたしの魔力が暴走し、意図せず巨大な火炎魔法を発動してしまった。
彼女はそれを止めようと必死になり、すべてを犠牲にして、鎮火の魔法を唱え続けてくれた。
その結果――彼女は、命を落とすことになった。
爆風と炎の中、最後に目が合ったとき、彼女は微かに笑って「あなたなら大丈夫、諦めないで。仲良くね」と言った。
その言葉が、私の胸に深く刻まれている。
(もし、あの時……あたしが魔力を制御できていたら……!)
あたしの手で守りたかったはずの人を傷つけてしまった。
自責の念は強く、長い間、あたしは魔法を使うのが怖くなった。
でも、彼女の言葉を思い出すたびに、絶対にこの力を使いこなしてみせると誓ったのだ。
※ ※ ※
意識が戻った瞬間、あたしの前には再び趙雪梅の冷たい目がある。
「ボーッとしてる暇なんてないわよ?」
彼女が鎖を振り回し、鉄球が私に向かって再度襲いかかってくる。
あたしは歯を食いしばり、思い切り叫んだ。
「行くわよ!」
再び火炎魔法を大規模に放とうとする。
それは今までの訓練で得た、最大出力の爆炎の魔法——。
【S級スキル:爆炎の嵐】
効果:広範囲に爆炎を放ち、敵を焼き尽くす。
ゴォォッと空気を焦がす炎の渦が滑走路を包み、一気に趙を飲み込もうとする。
熱気に押された中国兵士たちが後退し、「すげえ炎だ……!」と声を上げる者もいる。
「バカねぇ。一つ覚えが!!」
【S級スキル:魔力吸収】
効果:敵の魔法を吸収し、自らの力に変換する。
「くっ……!」
あたしの爆炎が、まるで霧のように彼女の掌元へ吸い込まれていく。
炎の渦がしゅるしゅると縮み、あっという間に消失してしまった。
その上、彼女の体がわずかに赤く輝いているように見え、まるであたしの魔力をそのまま自分のものにしているかのようだ。
「無駄って、言わなかった?」
勝ち誇るような笑みを浮かべる趙雪梅。
あたしの頭の中には、さっきの回想がまだ残っている。
(あの人が守ってくれたこの力……暴走させずに、最大限活かしてみせる)
再び両手に魔力を集中させる。マナイーターで炎の魔法を吸収されるなら、今度は炎の物量で押し切るのか、それとも吸収されない形の攻撃を編み出すか——。
趙雪梅がなぜか余裕の笑みを深め、「もっと私に魔力を献上してちょうだい?」とからかうように鎖を回す。
あたしは目を細めながら、限界ギリギリまで魔力をひねり出す。
周囲に赤い閃光が走り、髪の毛が炎のオーラで揺れる。
視線の隅で中国兵士たちが「何だあれ……!」と驚いているのを感じた。
(暴走させるんじゃない。あたしの意志で、魔力をコントロールするんだ……!)
あの人が守ってくれた、導いてくれたこの力。
もう二度と後悔なんかしたくない。
身体の奥底にある“無限”の炎を、自分のものとして使いこなす——それが、あたしが誓った道。
「あなたがいくら吸収しようと、あたしの魔力は尽きない。だったら、その飽和点を超えさせてあげるまでよ!」
そう叫んで、あたしはふたつの魔法陣を同時に展開する。
一つは足元に、もう一つは頭上に。
どちらも炎属性の魔法陣だが、それぞれ性質を変え、同時発動で威力を増幅させる。
ゴゴゴゴ……と滑走路が揺れるような重低音が響き、炎の奔流が地面から燃え上がる。




