第百六十五話 白石結衣VS趙雪梅
「次、あたしが行くよ」
白石がスッと前に出た。
その瞳には決意の炎が宿っている。
「白石さん、お願いします!」
俺が声をかけると、白石は「任せて」と小さく頷き、滑走路の中央へと進み出る。
周囲がざわめき始め、先ほどまで大刀の勝利に沸いていた日本団メンバーたちも、次なる戦いに目を向ける。
対面から現れたのは、中国S級ストレンジャーの一人、趙雪梅。
16歳という若さながら、流星錘(鎖付きの鉄球)を自在に操る腕前と、精密な攻撃センスが売りだという。
彼女は細身でありながら、武器を軽やかに振り回して見せている。
その冷え切った眼差しと鋭い笑みが、まるで白石を見下すかのようだ。
【趙雪梅】
年齢:16/性別:女性
武器:流星錘(鎖付きの鉄球)
特徴:遠距離でも近距離でも自在に戦える技量を備え、正確無比な狙いが武器。鋭い視線が印象的。
「女同士の戦いね。楽しませてちょうだい」
趙雪梅が冷笑を浮かべ、流星錘を一瞬だけビュンと振り回す。
鉄球が空気を切り裂く鋭い音が、観衆の耳に届き、周囲は再び興奮状態に包まれた。
「そっちこそ、私を楽しませてよね」
白石も負けじと微笑む。
だが、その奥には冷静な闘志が燃えているのが伺える。
二人の女ストレンジャーが対峙し、滑走路の中央で視線を交わす。
仲間たちや中国兵士たちが息を呑む中、“女と女の戦い”の幕が上がる。
※ ※ ※
あたし――白石 結衣は、しっかりと前を見据えた。
あたしは炎属性と回復系の魔法を得意とするS級ストレンジャーで、女性ながらも日本団の中核を担う一人だ。
これまで数々のダンジョンを攻略してきたけれど、この中国軍基地での“試合”は、また違った緊張感がある。
目の前にいる趙雪梅は、明らかにあたしを見下しているような態度。
16歳にしてS級という天才肌らしいけれど、その鋭い目つきと冷笑には嫌なものを感じる。
(甘く見ないで……。あたしだって、そんなに弱くないわよ)
「行くわよ!」
あたしはそう叫ぶと、両手を軽く前に出して魔法陣を展開。
すぐに炎の魔力が渦を巻き始める。
【S級スキル:爆炎の嵐】
効果:広範囲に爆炎を放ち、敵を焼き尽くす。
ゴオオッと燃え上がる炎の渦が、滑走路の空気を揺らしながら趙雪梅に向かって突き進む。
炎の熱気に観衆が息を呑んで後ずさりし、まるで灼熱の壁が生まれたかのよう。
しかし——。
「ふふ、こんなもの?」
趙雪梅は軽い足取りで後退すると、素早く流星錘を振り回して炎を掻き消す。
「えっ……?」
流星錘の鉄球が炎を切り裂くように軌道を描き、あたしの魔法を掻き乱してしまう。
(なに、今の!?)
「なら、もう一度……っ!」
あたしは悔しさを飲み込みながら、立て続けに炎を放とうとする。
しかし、その瞬間、流星錘がこちらに迫る。
鉄球がゴッと空気を砕くような音を立て、あたしの頭上を狙って高速で飛んでくる。
「くっ!」
咄嗟に炎の守護壁を展開し、バリア状の炎で防御する。
【S級スキル:炎の守護壁】
効果:炎のバリアで敵の攻撃を防御。
火花が散ると同時に鉄球が弾かれ、一瞬は防ぎきることに成功した……はずなのに、趙雪梅は次の手を既に打っていた。
「はは、甘いわね」
彼女が鎖を巧みに操り、鉄球を急回転させて別の角度から攻撃を繰り出す。
上段から守護壁で防げたと思ったら、次の鉄球はすでに下段へ軌道を変えて、あたしの足元を狙っていた。
(しまっ——)
「ぐっ……!」
足元付近に鉄球が直撃し、衝撃が走る。
咄嗟に炎の防御を再形成しきれず、あたしはバランスを崩して膝をついてしまった。
趙雪梅は、それを見て不敵な笑みを浮かべる。
半ば信じられない光景だが、彼女の動きは見た目に反して非常に迅速かつ正確だ。
あたしは立ち上がり、集中力を高めてスキルを再び発動させた。
【S級スキル:火炎弾】
効果:高温の火球を連続で発射し、敵に集中攻撃する。
鉄球を狙い撃つように火球を放つ。
「なっ……!」
一瞬だけ趙雪梅の動きが鈍る。
その隙を逃さず、あたしは全力で魔力を集中させ、最大出力の火炎を一点に放つ。
趙雪梅は防御の体勢を取るが、爆炎が彼女の周囲を覆い尽くす。
「……くっ!」
そして、大爆発を起こした。
(これでどう!?)
しかし……、あたしの期待とは裏腹に、煙が晴れた後には無傷の趙雪梅が立っていた。
「そんな……!?」
「無駄よ。私はあなたの魔法をすべて吸い取るスキルをもっているの」
【S級スキル:魔力吸収】
効果:あらゆるスキルや魔法を魔力に戻し吸収する。
「魔力を……吸収!?」
「そう。そして、その吸収した魔力でこういうことも……できるってわけ!!」
【S級スキル:多重軌道】
効果:流星錘を複数の軌道で操り、死角からの攻撃を可能にする。
鎖付きの鉄球が一度に複数の方向から飛んでくる。
上から、横から、さらには後方からも攻撃が迫り、あたしは全方位からの猛攻に対応しなければならなかった。




