第百六十四話 決着
【鋼身】を纏った防御力には絶対の自信があるはずの彼の顔に、一瞬の動揺が浮かんだ。
大刀が剣を振り下ろす瞬間、すさまじい雷の波動が空気を切り裂く。
振り下ろされた剣から放たれたソニックブームが、王天龍の周囲の空気を爆ぜさせ、【鋼身】の外殻にひびを走らせる。
「まだまだぁあああ……!」
俺の魔力が、すべて尽き果てるまで!!
俺はその一撃に留まらず、続けて追撃を加える。
かつて少年の頃に愚直なほど繰り返した“連続斬撃”の応用だ。
バチバチと弾ける雷光が何重にも重なり、鋭い刃先がさらに加速していく。
「くっ……!?」
王天龍が【鋼身】を強化しようとするが、そのバリバリと崩れていく音が聞こえる。
人々が見つめる中、棍を構えて必死に受け止めようとする王天龍の腕がぐらつき始めた。
「はああああああ……!」
俺は歯を食いしばりながら吠える。
追撃の連撃がさらに鋭さを増し、王天龍の棍すら弾くほどの衝撃となって襲いかかる。
金属同士が交わる甲高い音が滑走路に木霊し、観衆たちは一様に息を呑む。
王天龍も黙ってやられはしない。
「むううううう!」
彼は最後の力を振り絞るように棍を振り回し、かろうじて反撃を試みる。
しかし、既に崩れかけている【鋼身】防御では攻勢を維持しきれない。
「おおおおおおお!!」
俺が雷光をさらに纏わせ、剣に宿るスキルを重ねがけする。
【S級スキル:蒼雷斬】
効果:雷属性を纏った斬撃で敵の防御を無視してダメージを与える
剣が稲妻のような閃光を帯び、圧倒的なスピードで王天龍の胸元を貫くように突き込まれる。
「ぐああ……!」
苦しげな声を上げた王天龍が、たまらず後退する。
一瞬の隙を逃さず、俺はさらに一撃を振り下ろした。
両者の力が極限まで振り絞られ、激突する瞬間——
「ドガァン!!」
※ ※ ※
もの凄い衝撃が滑走路全体を揺らし、耳をつんざく爆音とともに煙と火花が上がる。
観衆たちの視界が灰色の埃に包まれ、みな思わず顔を背ける。
「…………」
しばしの静寂。
煙が晴れていくと、そこには肩で息をしながら立ち尽くす大刀の姿があった。
大剣の切っ先を地面に突き立て、体を支えるようにして大きく呼吸を整えている。その足元には、完全に気絶した状態で倒れ込む王天龍の姿……。
「やった……!」
白石が涙ぐむように声を上げ、霧島は拳を突き上げる。
天城やイザナも、驚きと安堵の入り混じった表情を見せ、周囲の日本団メンバーたちが歓声を上げる。
「勝った……!」
その叫びは滑走路にいる人々の間にも波紋のように広がり、まばらだった拍手や歓声が次第に大きくなっていった。
大刀は荒い息を吐きながら、ゆっくりと視線を上げる。
「どうだ……これが……俺の力だ……!」
体中が痛むはずなのに、その瞳には揺るぎない自信が宿っている。
さっきまで追い詰められていた男とは思えぬ雄姿がそこにあった。
黄を含む中国側の兵士やS級ストレンジャーたちも、唖然とした表情でその光景を見つめている。
先ほどまで「あいつはもう終わりだ」と嘲笑していた者たちが、皆一瞬言葉を失っているようだ。
やがて静寂を破るように、観客の中から「すげえ……!」という囁きが広がり、どよめきに変わる。
白石と霧島、天城が大刀のもとへ駆け寄ろうとするが、大刀は片手を上げて「大丈夫だ」と合図を送り、ふっと笑みを見せる。
(やり続けた力、ようやく……この場で示せたな)
まだ胸には痛みが残るし、腕もガクガクしている。
だが、少年期から鍛え上げた自分の力を“やり続ける”ことで勝ち取った勝利は、何にも代えがたい達成感をもたらしていた。
王天龍は完全に意識を失っているが、呼吸はあるようだ。
その巨体がピクリとも動かない様子に、彼の仲間たちも動揺している。
やがて何人かが走り寄り、王天龍を介抱し始めた。
大刀は剣をスッと担ぎ直し、痛む体に鞭打ちながら仲間たちのほうへ向き直る。
「ま、これで……俺たちがただの腕力バカじゃないってことは分かったろ……?」
その言葉に、白石が涙目で笑いながら「もちろんだよ!」と答える。
霧島はうなずき、大刀の肩を優しく叩く。
イザナは微かに微笑しながら、結果を認めるように頷いた。
周囲では、今だ動揺を抑えられない中国兵士たちが戸惑う中、拍手や賞賛の声が混じり始める。
「あの【鋼身】を破るとは……」「雷の力、あんなに強力だったのか……」など、ざわめきが途切れることなく続いた。




