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第百六十三話 愚直につづける力


※ ※  ※ 


「そうだ……あの時を思い出せ……」


周囲の視線や耳をつんざくほどの歓声が遠のいていく中、大刀だいとうの意識は目前に立ちはだかる王天龍ではなく、遥か過去の記憶へと向かっていた。


滑走路に吹きつける風が砂埃を舞い上げ、王天龍の鋼の肌が鈍く光る。


けれど大刀は、その巨体を見ながらも、自分が歩んできた道のりを脳裏に呼び起こしている。


※ ※  ※


「もう一度!」


少年だった俺は、痩せた腕で剣を必死に握りしめ、素振りを繰り返していた。


初めは体が悲鳴を上げるほどの苦痛だったし、すぐに豆が潰れて血がにじむ。


けれど、あるストレンジャーの背中に憧れた俺は「これくらいで諦めるわけにはいかない」と歯を食いしばっていた。


やがて夜になり、体の節々が痛んで立っているだけでも辛くなる。


なのに俺は、そのまま錆びついた鉄の塊に向かって剣を振り下ろす。


あの俺を救ってくれたストレンジャーに言われて作った即席の練習台……いや、ほとんど“鉄壁”に近いその相手は、少年の力などまるで受け付けない。


最初のうちは100回ほど斬りつけただけで刃こぼれができ、剣はすぐに使い物にならなくなる。


「くそっ……こんなんじゃダメだ!」


剣が壊れれば、また作り直すか買い直すしかない。


でも金なんかないから、半ば打ち捨てられた古い剣を砥いで再利用するしかなかった。


「何千回だろうが、やり続ければ……絶対に強くなる」


誰もが笑った。


その年端もいかない子供が、いきなり鋼鉄を切り裂こうなんて馬鹿げている、と。


だけど俺は違った。


俺は、あのヒーローみたいなストレンジャーに追いつきたかったし、誰かを守れる力が欲しかった。


痛む腕を押さえつつ、毎日のようにやり続けた。


素振りを1日3000回。


さらに鋼鉄への斬撃を300回。


毎晩、倒れこむように寝る日々。


朝になれば、昨日と同じメニューを繰り返す。


そんな生活を何ヶ月、何年と続けたある日……。


「ん……? あれ?」


いつものように鋼鉄の壁へ100回近く斬りかかっていたとき、剣の刃こぼれが意外と少ないことに気づいた。


以前なら、剣が折れて終わっていたのに、今では軽いダメージだけで済んでいる。


「これ……俺のスキルか?」


試しにもっと回数を増やしてみると、驚くべきことに剣は崩れない。


むしろ鋭さが増したようにすら感じる瞬間があった。


それはどうやら、俺の体に眠る特性だった。


“剣の鋭利さをアップさせ、さらに攻撃の持続力を高める”——地味だが、鍛錬を重ねるほどに効果を発揮し、剣が砕かれずに強化されていくような感覚。


「もっと、もっとだ……!」


自分の中に眠るその力が伸びしろを見せるたび、俺のモチベーションはさらに上がり、愚直な訓練も一層ハードになっていく。


そして、ついにある日のこと——


「ふっ!!!」


大振りで鋼鉄の壁に剣を振り下ろした瞬間、これまで切れなかったはずの分厚い鉄の塊が、まるでバターのようにスパッと切り裂けた。


金属が断ち割られる高い音が響き、切断面は滑らかに光っている。


「これが……やり続ける力か……!」


俺は剣を握りしめ、歓喜に震えた。


思わず地面に崩れ落ちそうになるほどの達成感。それまでの泥臭い努力が一気に報われた感覚があった。


「俺は強くなってる。あのとき誓った……誰かを守れる存在になるんだ、絶対に!」


その後、俺は鍛錬を続けながら冒険者として頭角を現し、やがてS級ストレンジャーとして名を馳せるようになった。


大振りの剣と愚直なまでの力技、それが俺の“代名詞”になったのも、こうした背景があったからだ。


※ ※  ※


(そうだ……俺にはあの経験がある。あの頃、バカみたいにやり続けた力……今こそ使うときだ!)


俺は荒い呼吸を整えながら、ギラつく視線を王天龍へ戻す。


王天龍の巨体が滑走路に立ちはだかり、その鋼の如き防御は未だ盤石に見える。


しかし、俺の中には確かな手応えがあった。


地味に見えても、継続すればどんな硬いものでも切り裂いてきたあの感覚——今こそ応用する時。


「行くぜ!」


声にはまだ痛みが混じっているが、意気込みは失われていない。


俺が大剣を構え、両手に魔力を集中させる。


【S級スキル:鋭雷断えいらいだん

効果:剣の鋭利さを極限まで高め、一撃で敵の防御を貫く。


シュウウウッ……!と青白い雷光が剣全体を包み、まるで刃そのものが伸びるように閃き出す。


周囲の空気がピリピリと帯電するのを観衆が感じ取り、どよめきが走る。


「な、なに!?」


王天龍が僅かに目を見開く。


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