第百六十一話 絶体絶命の窮地
一瞬だけ視線を上げると、遠巻きに見守る仲間たちの姿が目に入る。
イザナは冷静な眼差しを俺に向け、何か策を探っているようにも見えた。
霧島が拳を握りしめて焦れているのも分かる。
白石は悲壮の表情で、天城も苦しそうな顔をしている。
(くそ、このままじゃ俺が負けたら、全員の計画に支障が出る。こんなところで終わるわけにはいかねえ……!)
「まだやるのか? あんまり無茶をすると、全身粉々になるかもしれんぞ」
王天龍が皮肉げに笑い、棍の先を小刻みに揺らして挑発する。
その巨体から放たれるプレッシャーは人間離れしていて、まるで山そのものが動いているかのようだ。
「上等だ……。俺は、あんたに破壊力じゃ負けねえ!」
何とか体勢を立て直し、大剣を両手で握り直す。
雷光を再度溜めようとするが、魔力の残量が心もとない。
(ここから勝つには、相手の鋼身が解ける瞬間を突くしかねえ。あるいは、もっと強力な一撃を叩き込むか……)
観衆のざわめきが一段と大きくなり、周囲の兵士や仲間たちが固唾を呑んで次の展開を待っている。
滑走路をかすめる風が一層冷たく感じられ、全身の毛穴がぞわりと総立ちになる。
「いい度胸だ! ならば、どこまで耐えられるか見せてみろ!」
王天龍が両手で棍を握り、笑いながら力を溜める。
やつのS級スキル【鋼身】は、武器にも適応されているようで、その一撃一撃がものすごく重く、高威力なのだ。
彼の背後には、まるで地鳴りのようなオーラがうねっていた。
俺は、呼吸を整えながら一瞬だけ目を閉じる。
(やるしかねえ……!絶対に勝ち筋を掴んでみせる!)
鼓動が高鳴り、雷光が再び剣身に宿り始める。
※ ※ ※
「ぐあああああっ!!」
想い一撃をくらい、俺はまた吹っ飛んだ。
時間が経過する中で、俺は何度も剣を振り下ろしてきた。
全力で攻撃を与えても、王天龍には傷ひとつつけられない。
俺の剣撃が雷を纏い、全身の力を込めた一撃となっても、あいつの鋼の体には何の影響も与えられない。
(なんだよ、こいつ……どんだけ固いんだよ!)
息が切れる。剣を振るう腕が重くなる。
それでも、攻撃を続けなければならないと分かっている。
だが、俺の体力は確実に削られていき、逆に王天龍の棍の攻撃は、俺を押し込む力を強めてきた。
「どうした、日本のS級ストレンジャー。そんなものか?」
王が冷たく笑いながら棍を構える。その巨体が再び俺の方に迫ってくる。
「ふざけるな!」
俺は叫び、再び剣を振り下ろした。だが、その一撃もまた、王の棍に弾き返される。
(どうする……どうすればあいつを倒せる!?)
焦りが胸を支配する中、王がふいに静かに呟いた。
「そろそろ終わらせるか」
その声と同時に、王がS級スキルを発動した。
【S級スキル:震天撃】
効果:地面を砕き、大範囲に衝撃波を放つ攻撃。
「なっ……!」
王の棍が地面に叩きつけられると同時に、衝撃波が広がり、俺の体を包み込んだ。
地面が大きく揺れ、裂け目が広がる。
その力に俺は逃げる間もなく直撃を受け、体が宙を舞った。
「ぐああっ!!」
地面に叩きつけられ、体中に痛みが走る。
息ができない。全身が重く、力が入らない。
「大刀くん!」
白石の悲鳴が聞こえる。
日本団の皆が俺を心配して叫んでいるのが分かる。
だが、俺は答えることすらできなかった。
(やばい……あの中国S級ストレンジャー、マジでつええ……)
体が言うことを聞かない。
視界が揺れる中、王がゆっくりとこちらに歩み寄るのが見える。
(だめだ、もうおしまいだ……)
「大刀!」
その時、イザナの声が響いた。
「大刀! どうした! そんな無様な姿では、あの時、お前を救ったストレンジャーに顔向けできんぞ!」
その言葉に、俺の心が震えた。
(あの時……)
あの日の光景が頭に浮かぶ。朽ちた村と、その中で手を差し伸べてくれたストレンジャーの姿。
「……っ!」
歯を食いしばり、俺は剣を杖代わりに立ち上がった。
全身の痛みを無視し、再び王に向き直る。
「ほう、まだ立ち上がるのか」
王が少し驚いたように目を細める。
背後に控えていた他の中国ストレンジャーたちも、感嘆の声を漏らしていた。
「やるじゃない……。ただの腕力バカじゃないのね」
陳嵐が双刀を回しながら笑みを浮かべる。
「がんばれ、大刀くん!」
白石の声が聞こえる。霧島も拳を握りしめながら見守っている。
(そうだ……俺はここで倒れるわけにはいかねえ)
俺の胸にあるのは、かつて救われたあの瞬間の記憶だった。




