第百五十八話 中国軍S級ストレンジャーとの決闘
黄志剛の声には明らかな挑発が込められていた。
周囲の兵士たちが笑みを浮かべながらこちらを眺めている。
まるで“日本団”の力が本物かどうか試してやろう、と言わんばかりだ。
一瞬、空気が凍りつくように静まり返る。
イザナは冷徹な目つきを黄志剛に向けている。
そのあと、俺たちのほうに視線を寄越す。
これはつまり、「やるしかない、いいな?」というアイコンタクトだ。
俺は、その目にこたえるようにしっかりとうなずく。
他の日本団のメンバーも同様だった。
「……了解しました」
イザナの落ち着いた声が響く。
「私たちの実力を確かめたいのなら、その提案、受けましょう。ですが、我々の目的はダンジョン攻略です。もし、こちらが勝った場合は……」
黄志剛が目を細めて口元を吊り上げる。
「ふん……当然、あなた方を正当に評価し、できるかぎりのサポートを約束しよう。まあ、勝てたら、だがね」
最後の一言に、彼の部下たちも含み笑いを浮かべている。
まるで勝負は初めから見えていると言わんばかりだ。
大刀は今にも飛びかからん勢いだが、イザナが短く息を吐き、沈着冷静な声で仲間たちへ指示を飛ばす。
「大刀、霧島、白石、天城……準備はいいか?」
俺たちは小さく頷き合い、周囲の兵士たちを警戒しながら構えを取る。
山岳地帯の澄んだ空気が、ピリリと痛みを感じるほど尖っているようだ。
遠くには霧の頂ダンジョンへ続く峰が薄く見えているが、まずはこの国との“力の駆け引き”を乗り越えねばならないらしい。
「さあ、ダンジョンに向かう前に、我らと剣を交えてみようではないか」
※ ※ ※
中国人民軍の基地に到着した俺たち日本団。
目の前には広大な滑走路がどこまでも伸び、ずらりと並んだ戦闘機やヘリコプターが圧倒的な存在感を放っている。
兵士たちの規律正しい動き、鋭い眼差し、そして軍用車両のエンジン音が重なり合い、まるで別世界に足を踏み入れたかのような緊迫感が漂っていた。
「ここが人民軍の基地……さすがに規模が違うな」
思わず小声で呟くと、冷たい風が滑走路を吹き抜け、俺の頬を強く打つ。
「日本団、ついて来い。滑走路の中央だ」
軍服姿の黄志剛が先導し、俺たちを無機質なコンクリートの大地へと案内する。
彼の足取りは自信に満ちており、その背筋はピンと伸びている。
表情には冷たい笑みが浮かんでおり、まるでこれから始まる“儀式”を心待ちにしているかのようだ。
「中国にもS級ストレンジャーがここに5人揃っている。一人ずつ、対戦していこうではないか」
黄志剛が立ち止まって振り返り、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
滑走路の風が吹くたび、彼の軍帽の縁が揺れ、鋭い目つきが覗く。
「人民軍のストレンジャー部隊では、新人が入ってきたら必ず決闘を行うんだ。交流の一環というわけさ。ただし……あまりに弱い者には、そこで重傷を負わせて田舎に帰ってもらったがな」
その挑発的な言葉に、俺たちの間に緊張の糸が張り詰める。
すぐそばで大刀が奥歯を噛みしめ、「ふざけんな!」と一歩前に出ようとするのがわかった。
「大刀、下がれ」
イザナが冷静に一言で制止する。
大刀は悔しそうに眉をひそめながら、拳を下ろしたが、その瞳にはまだ怒りの火が燃えている。
(くそ……ホアン隊長の態度、完全に俺たちを見下してるじゃないか)
イザナは一つ息を吐いてから、前に進み出る。
「すべては、この決闘をもって決めましょう。もしこの勝負に負けたなら、私たちは黙って日本に帰ります。ただし、もし勝ったら、霧の頂ダンジョン攻略に全力でサポートをお願いしたい」
その言葉に、黄志剛がうっすら笑みを深める。
「いいだろう。条件を受け入れよう。それで、あなた方が本物のS級ストレンジャーかどうか、はっきりわかるってわけだ」
※ ※ ※
黄志剛の合図で、5人のS級ストレンジャーが滑走路で前に出た。
彼らは軍の制服とは異なる戦闘用の装いを身に纏い、それぞれ得物を手にして堂々と立っている。
その姿から放たれるプレッシャーは尋常ではない。俺は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「かるく、五人のことを紹介しておこう」
そういった黄志剛が朗々と語ったのは……
「李剣豪」
年齢:32。
性別:男性。
武器:九環刀(柄にリングの付いた古式の長剣)。
特徴:冷静沈着で、力強い剣術と優れた防御力を誇る。その腕前は軍内部でも筆頭クラス。
「陳嵐」
年齢:27。
性別:女性。
武器:双刀(短剣が二本)。
特徴:圧倒的なスピードと敏捷性で連続攻撃を繰り出す。長い黒髪を後ろで束ねているのがトレードマーク。
「王天龍」
年齢:43。
性別:男性。
武器:棍(長く太い鉄棒)。
特徴:巨体から繰り出される豪快な一撃と、広範囲を制圧する力を持つ。身に纏う筋肉の厚みは、見るだけで恐ろしい迫力。
「趙雪梅
年齢:16。
性別:女性。
武器:流星錘(鎖付きの鉄球)。
特徴:遠距離でも近距離でも自在に戦える技量を備え、正確無比な狙いが武器。鋭い視線が印象的。
「楊剣峰」
年齢:18。
性別:男性。
武器:槍(鋭く洗練された穂先)。
特徴:攻守のバランスに優れ、突きと防御の技術は一流。沈着冷静に相手の動きを見定める。
(全員、ただ者じゃない……)
見ているだけで息が詰まるような圧倒感。
彼らの足元には微動だにしない自信があり、空気を切り裂くような殺気すら感じる。俺の背中にも冷や汗が伝うのを感じた。
5人のうち、王天龍という大柄な男が一歩前に出て、ニヤリと笑う。
「おい、日本のS級ストレンジャーさんよ。本当に強いって噂が本当なら、さぞ俺たちを楽しませてくれるんだろうな?」




