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第百五十七話 中国人民軍ストレンジャー部隊

俺たちはロシアのモスクワを出発したトランス=マンチュリア鉄道に乗り込み、シベリアの荒野や凍てついた大地を越え、ハルビンを経由してついに中国領内へと入った。


車窓から見える風景は、最初は広大な草原や雪に覆われた山々だったが、列車が南へ進むにつれて景色は次第に険しい山岳地帯へと変わりはじめた。


標高が上がるごとに耳がツーンとして、空気が薄くなっていくのを感じる。


そんな長い旅の末、俺たちが降り立ったのは標高の高い山岳地帯に位置する都市、麗江。


ここは歴史的な街並みが広がっており、古い石畳の道と伝統的な木造建築が特徴的だ。


迷路のように入り組んだ細い路地では、地元の人々の笑い声や商人の呼び声が響き、香ばしい食べ物の匂いが鼻をくすぐる。


「すごいな……ロシアと全然雰囲気が違う」


俺は町並みを見渡しながら、小声で呟いた。


どこを見ても色鮮やかな提灯がぶら下がり、土産物屋の軒先には民族衣装が飾られている。


観光客らしき人々も多く、肩をぶつけそうになるほど通りは賑わっていた。


「へぇ……あれが噂の“納西火鍋”か?」


大刀が広場の屋台を見つけて目を輝かせる。


真っ赤なスープの鍋がグツグツ煮立っており、唐辛子らしき赤い香辛料が大量に浮かんでいるのが見えた。


「確かに美味そうだな。辛そうだけど」


霧島も冷静を装いながら、実は結構食欲をそそられているようだ。


「ちょっと、寄り道して食べていかねえか?」


大刀が嬉々として提案する。


「……いい加減にしろ、大刀」


イザナがビシッと背筋を伸ばしたまま鋭い声を発する。


「ここには観光できたんじゃない。俺たちの目的地は“霧の頂ダンジョン”だ」


大刀は肩をすくめながら、残念そうに火鍋を見やる。


「もちろん、わかってますよ、イザナ隊長」


悔しそうな大刀。


「次の休憩には絶対食べてやる……」


そんなやりとりを続けながら、俺たちは麗江からさらに山深い場所へ足を踏み入れると、空気はさらに澄んできて肌寒いほどになる。


視界の先には、霧で覆われた高山が堂々とそびえ立っていた。


【S級古代ダンジョン】

名称:霧の頂(Summit of Mist)

概要:標高の高い山岳地帯に位置する霧で覆われたダンジョン。視界が極めて悪く、険しい地形がストレンジャーの行く手を阻む。

ボスモンスター:霧竜王(Mist Dragon King)

特徴:霧を纏う龍。濃霧によって敵の視界を完全に奪いながら、雷撃と氷を操る。


イザナが険しい顔で言葉を足す。


「標高が高い分、酸素も薄いだろう。ダンジョン内でも同じデザインモチーフになっていると推測される。霧竜王の雷撃や氷結スキルだけでなく、足場の危険や低酸素にも気を配らねばならない」


白石がうなずきながらメモを取り、霧島も武器の点検をしている。


(ロシアでの傷はまだ癒えちゃいないが、ここで立ち止まるわけにはいかない……)


麗江の入り口付近で、俺たちを待ち構えていたのは中国人民解放軍の一隊だった。


兵士たちは軍服に身を包み、通りを占拠するように整然と並んでいる。


その中心には、ストレンジャー部隊の隊長らしき男が立っていた。


「日本団の皆様、ようこそ中国へ」


一見丁寧に聞こえる挨拶だが、男の目はどこか冷たく、まるで値踏みするような鋭さを帯びている。


「私は、人民解放軍ストレンジャー部隊の隊長、黄志剛ホアン・ジーガンだ。これから我々人民解放軍が、霧の頂ダンジョンの攻略をサポートさせていただきます」


言葉だけ聞けば歓迎ムードのはずだが、その態度はまるで俺たちを見下しているかのようだ。


イザナが軽く頭を下げて返す。


「ありがとうございます。私はイザナ=カグラです。共に協力して、このダンジョンを攻略しましょう」


だが、黄志剛の表情は微塵もほころばない。


むしろ、微かに嘲笑を浮かべるような雰囲気すらある。


「イザナ……君は、日本ではどれほどの強さを誇っているのかね?」


挑戦的な物言いに、霧島が目を細める。


白石も口を開きかけるが、イザナが抑えるように手を挙げた。


「私の強さですか。日本での評価を聞くより、実際に行動で示した方が早いと思いますが」


「ほう……行動ね」


黄志剛は皮肉げな笑みを浮かべる。


「噂では、日本団が古代ダンジョンを三つも攻略し、記憶のオーブを手に入れたとか。だが、それは実に“順調すぎる”と感じるね」


露骨な嫌味に、こちらの仲間たちの空気がピリつくのを感じる。


大刀が拳を握りしめ、「ふざけんな……!」と口の端から声を漏らすが、イザナがもう一度手で制止した。


「捏造だとか、演出だとか……そう思われても仕方ないかもしれませんね」


イザナは冷静に答える。


「ですが、本物だと証明するのも簡単でしょう。私たちが実際にダンジョンを突破すればいいだけの話だ」


黄志剛は肩をすくめ、わざとらしくため息をついてみせる。


「いやいや、ダンジョンに行く前に、まずはその力を見せてもらわないとな」


その言葉に、白石が微かに眉をひそめる。


霧島の表情も険しくなり、大刀の怒りはさらに膨れあがっている。


「どういう意味だ……?」


大刀が低い声で訊ねる。


すると、黄志剛が指をパチンと鳴らし、彼の背後から武装したストレンジャーたちが五人ほど現れた。


皆、S級ストレンジャーのオーラをまとい、俺たちを鋭い目つきで睨んでいる。


「腕試しといこうじゃないか。国と国の威厳をかけて、我が人民軍のS級が相手をしてやる。もちろん、負けたらそのまま島国に帰ってもらうことになるが……やってくれるね?」


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