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第百四十九話 日本団、初めての犠牲者

「これは……まさか……!!」


下準備をすましていたのだろう。霧島が、発動まで時間のかかる解析魔法を発動し、光る瞳で白狼と周囲を観察する。


【解析の瞳】

効果:対象の能力や周囲の影響を可視化する。


「イザナさん……分かったぞ! この部屋全体に【極寒領域】っていうスキルが展開されている!」


「なに……?」


イザナがその言葉を繰り返す。


やがて、彼は鋭い眼差しを白狼に向け、冷気の渦巻く空間に声を響かせた。


「なるほど……だから俺たちの体力が徐々に奪われるだけでなく、スキルの威力まで落ちていたわけだ」


グルルルル……。


白狼が低く唸り声を上げ、その青白い瞳には人間とは思えぬ冷酷さが宿っている。


【スキル:極寒領域】

効果:広範囲の温度を急激に下げ、体力を削る。体力を削られたストレンジャーのスキルの威力も落ちる。


「どうやら、攻撃だけじゃない。俺たちの力そのものを削ぐための結界みたいなものだな」


「俺の【光刃剥奪ラディアントディスペル】や【物質固定】が効かなかったのは、このせいなのか……!」


足裏に力を込めようとしても、床の氷がツルリと滑り、焦りに満ちた心が空回りするばかりだ。


「どうする……どうすればいいんだ……!」


仲間の半分を失った時点ですでに手詰まり感があったが、ここにきてさらなる絶望が押し寄せる。思考がうまくまとまらない。


頭の中に浮かぶのは、氷漬けになった大刀と白石の姿、それに俺たちが無力なまま倒れる未来だけだ。


何か方法を探ろうとしたその瞬間、白狼が再び突進態勢に入った。


冷気を纏う大質量が再びうなり、まるで氷河が一気に移動するかのような圧倒的質量を持って迫ってくる。


「また来るぞ!」


霧島の叫びと同時に、再び【氷刃の突撃】が発動し、白狼が凍てつく尖兵のごとく突っ込んでくる。今度の狙いは明らかに俺だ。


寒さで脚が震え、一瞬回避行動が遅れた。


視界には巨大な白い塊が迫り、氷の刃が容赦なくこちらを襲おうとしている。


(避けられない……!)


吹き荒れる極寒の風をまともに浴び、全身に冷たい恐怖が駆け巡る。


逃げる暇もない。


死が目の前に迫った、まさにその時――


ドンッ!


突然、強い衝撃を感じ、俺はよろめきながら地面に手をついた。


誰かが俺を突き飛ばした……?


「藤堂さん!?」


目を上げると、そこには盾を構えた藤堂の姿があった。


彼の顔は氷のように冷たい汗がにじみ、歯を食いしばっている。


それでも、その目には仲間を守ろうという強い意志が宿っていた。


「天城くん、ここは任せろ……! うおおおおおお!!」


藤堂が渾身の力で魔法陣を展開し、きらめく結界を形成する。


彼の戦意が迸るように、絶対防御の光が辺りを照らした。


【絶対防壁】

効果:広範囲にわたる防御壁を展開し、敵の攻撃を完全に防ぐ。


あまりにもまばゆい防壁が、氷刃を纏った白狼の突進を真正面から受け止める。


結界に触れた瞬間、大きな衝撃波が生まれ、ズシンという震動が足元を揺らす。


それでも白狼は怯まず、さらに力を込めて押し進む。


凍気が結界の表面を次第に蝕み、光のバリアにヒビを走らせていくのが見えた。


「ぐあああああっ!!」


限界を超えた衝撃に結界は破砕され、凍てつく氷の棘と圧倒的なパワーが藤堂を貫いた。


あっという間に彼の身体が粉々に砕かれ、血と氷の破片が辺りに飛び散る。


「藤堂さーーーーーーーーん!!!!!」


俺は声を枯らして叫んだ。目の前で仲間の命が文字通り粉々に砕け散る光景を見せつけられ、胸の奥が切り裂かれるように痛む。


そばで霧島が「くそっ!」と呻き声を上げ、拳を固く握りしめているのがわかった。


イザナも唇を噛み、何とか冷静を保とうとしているようだが、その肩はわずかに震えていた。


氷漬けの大刀と白石、そして散った藤堂――この地獄のような空間にただ三人分の命が消え、もう俺たちに残された道はほとんどない。



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